村の広場ではちょっとした宴会が開かれていた。
それは訪れた二人の旅人を歓迎するためのもの。
主賓の一人であるラビは村人達やご馳走に囲まれながら、実に楽しそうに過ごしていた。

「悪いねー、ウィル。こんなものしか用意できなくって。」
「ジュニアだって・・・なにいってんの!充分豪華さ!
 むしろ、わりぃな。忙しい時期に急に来て・・・」
「水くさいことをお言いでないよ!」

ラビに話しかけていた女性はその直後、いたずらをしている子供たちを発見し、そちらの方へ走っていった。

「おい、ジュニア!」

女性が去っていったのと入れ替わりに、今度は数人の若い男たちがラビにからみにきた。

「お前と一緒にきた奴さ!」
「ああ、神田のこと?」

ラビは宴とは少し外れた場所に腰かけているもう一人の主賓に目をやった。

「そうそうそうそう!」
「アイツが男って本当か!?」

ラビは苦笑を漏らした。
そして、神田に向けていた視線を青年たちに移し、肯定の言葉を口にした。
瞬間、男たちは頭を抱えながら悶絶しはじめる。

よく耳をすませば、嘘だ、信じたくない、夢は潰えた・・・などという言葉が聞き取れる。
ラビは笑った。

「それ、アイツの前で言ったらたたっ切られんぞー。」
「あーあ。村一番の美人な妻貰うオレの夢がぁ・・・」
「村内で探すんさねー。」
「オレ等の年頃で一番の美人はちょっとなぁ・・・」
「難有だろ。」

確かに、とラビは思った。
ラビよりも歳上に当たる彼らの年代で美人と持て囃される人物は我が儘であることも有名だ。

「他の年のヤツも・・・ちょっとなぁ?」

青年たちは顔を見合わせた。
ここでラビはそういえば、と思い出す。
確か目の前の青年たちは昔のことが可愛いだのなんだの言って構っていたのだ。
年下の美人な嫁は男のロマンだとかなんとかいいながら熱く語り出しそうな彼らが、
いい気分がするしないは別にして、その事に触れないことを不思議に思った。

「なんだよー!お前らのことだからてっきりの名前を挙げるかと思ったさー?」

思いきって出してみた台詞に対して、返ってきたのはやはり沈黙。
ラビは苛立ちを覚えた。

「なぁ。」

自然と自分の口の端が上っているのをラビはどこか客観的に認識していた。

「なんでみんなしてを除け者にしてるんさ?」

思いの外低く響いたラビの声に青年たちは慌てた。

「の、除け者って・・・」
「別に、そういう訳じゃ・・・」
「ふーん?」

口の端がさらにつり上がる。

「だから、その・・・」

年下のラビにたじろぐ青年たち。
端から見ればなかなかの光景だ。

「で?なんでこうなったんさ?」

この時のラビの笑顔は、実に素晴らしい迫力を持っており、青年たちは後々まで寝言で笑わないでくれ!
とうなされるようになったとか。










宴がまだまだ続いている頃、そこから少し離れたところに座る神田の元にラビは足を向けた。

「よっ!神田も食ってっかぁ?」

神田が自分の質問に答えないことを予め想定していたのか、ラビはそのまま腰を下ろし、二人の間に食事の乗っている皿を置いた。

「で?」
「ん?」
「なにがわかったんだ?」

さっきものすごい殺気を感じたぞと続いた神田の言葉にラビは笑って誤魔化した。

「ま、ちょっとした証言さ。」






ラビの爽やかに恐ろしい笑顔を見た青年たちは、怯えてしどろもどろになりながらも
自分たちが知っていることについて話し出した。
あまりにオドオドしていた為に全て記しきるのには相当時間がかかってしまうので、
ここではさらっと短くハキハキと返事をしていたかのように記していく。


「化け物は4ヶ月位前から突然村の近くに現れ出して襲ってきたんだ。
 最初に襲われたのは3人。森へ木を切りに行っていたのに帰りが遅いってんで村総出で探しに行ったんだ。
 3人の内1人が生き残った。あとの二人は服だけを残して消えちまった。」

「生き残ったそいつはたまたま茂みの近くの洞穴に落っこちて助かったらしい。
 足を挫いたけどそれ以外の外傷はなかった。身動きがとれなかったそいつを見つけたのがだ。」
「それのどこが問題なんさ?」
「まあ聞けって。みんなも特に気にしていなかったさ。は元々人や物を探すのは得意だったからな。」
「生き残ったヤツの証言から化け物の存在を知って、村で警戒をすることになったんだ。」

はじめの内はなにもなかったらしい。
村の外に出てもなにも起こらず、平穏な日々が続いた。
しかしある時また化け物が現れたと言う。
その時、遭遇したグループの中にがいた。

「大人はみんな全滅だった。
 助かったのは木の実を取りに行っていた子供とだけだ。
 その時一緒にいた子供が言うにはの周りが光った後、化け物が消えたらしい。」

ラビはそこまで聞いて思わず話を止めた。

「それ、どういうことさ!?」
「俺だって知らねーよ!」

掴みかかるようにしているラビに青年たちはひとまず落ち着くように促した。

「ただ、その時だけじゃないんだ。
 その後もと共に外に出たグループだけが化け物と遭遇しても無傷で帰ってきた。」

そこから、少しずつを聖女や守り神のように扱うように自然となっていたらしい。
その一方で、彼女のことを怪しむ声も聞こえてきた。

「化け物騒動が起こるとき、は常に近くに居たんだ。」

気のいい人間が集まっている小さな村とはいえ、度重なる化け物騒動で
多少なりと疑心暗鬼になっていたことも関係していたのだろう。
そんな曖昧な立場に立たされていたの扱いはある事件を境に急展開した。

「それまで何度もと森に入った人間は、途中でアイツとはぐれたりした奴を除いては全員無事に帰ってきていた。
 でも、あの日だけは違ったんだ。


 その時、アイツと森に入った大人は全員戻ってこなかった。」

あまりに帰りが遅いのでたちを探しに森に入った村人が見たのは、
散乱する衣服に囲まれ、放心状態で座り込んでいるの姿だった。

「慌ててみんなは駆け寄った。んで、肩に触れた途端には取り乱したように叫びだしたらしい。

 『殺した、私のせいだ』ってな。」

その言葉の真意は誰も確かめられていない。
だが、村人達からの扱いを変えるには充分に影響力があった。
それまで彼女の周りを囲っていた人々は彼女の言葉を怪しみ、距離をおき始めた。
自身、事件のことをまったく語らないことも人々の不信感を煽るのを手伝った。
それから徐々にいまの状態になっていったという。

「それにしても妙じゃねーか?普通それなら子供たちをに近づけさせねーさ。」

もっともな疑問に対して、青年たちはさらりと答えた。

「それはあの子供たちの親が中立派だからな。」
「ナニソレ?」
「まぁ、そのまんまの意味だ。
 を疑いもせず、肩も持たない。
 今のところ森に入った子供は全員無事だし、子供たちがを好いているから近づく事を黙ってるんだ。」

しかし、ラビはその子たちの親がから距離をおいているのを知っている。
まぁ、良く言えば中立、悪く言えばどっち着かずの態度をとっているということだ。
さらに、聞けば大人たちが森に近づかない為、子供たちやが枝を拾って薪の代わりに使っているらしい。
村としても、生活のためにある程度黙認しているのだろう。

それから二三質問をしてから、ラビは爽やかに青年たちを解放したそうだ。




「その話だけじゃあの女がアクマじゃねぇとは判断できねえ。」
「でも、が今回の件に関係していることはほぼ確実さ?」
「フン、めんどくせー」
「神田ー、そんなことしたら美人が台無し・・・」


チャキッ


「ナンデモアリマセン。」

降参のポーズを取ればラビの前に立つ男は不機嫌そうに六幻をしまった。

「取り合えず俺はあの女を見」
「斬っちゃダメだかんな!」
「・・・」

『見張っている』と言おうとしただけなのにラビにより言葉を遮られた。

だが、神田も大人だ。

聞かなかったことにして立ち去ろうとした。
それをどう受け取ったのか、ラビはなおも念を押していく。

「解ったんか?神田!オイってば!」

大人な神田はそこでおもむろにため息をつき、一言「ああ」と呟いた。

「あと、が怖がるから睨んじゃダメさ!
 それから村のみんなに変な噂をたてさせる様なこともダメだかんな!」

さらに続くラビの注文に大人な神田はめんどくさそうに相槌を返して・・・

「それから、を苛めんなよ!あと・・・」

大人な神田はそれでも耐え・・・

「うるせぇっ!先にテメェから三枚におろしてやろうか!?」





大人になりきれなかった。




その後、刀を振り回す神田と、必死に逃げるラビを見て、村人達が野次馬をして、
実に賑やかに宴は終わりを迎えた。





<コメンツ>
 連載過去偏
 謎はいまだ謎のまま・・・