クワガーモンの追撃を逃れ、ひたすら森の中を走る子供たち。 やがて、森の切れ目に差し掛かり、視界が開けたとき、彼らは絶望の声を上げる。 彼らの目に入っていたのはただ広い空と、突き出ている崖のふちだけだった。 太一がその端まで走りより下を覗き込むが、遥か下にある森と川が目に入るだけで、そこへつながる道は見当たらない。 うなだれてしまう頭を何とか持ち上げ、森のそばで待っている子供たちに向けて叫んだ。 「こっちはだめだ!別の道を探すんだ!」 「べ、別の道って!?」 どうすればいいんだ?と瞬時に子供たちは慌てる。 しかし、その直後またも木々を揺らし、巨大なクワガタが子供たちに襲い掛かる。 間一髪で避けるも、またも旋回して再度襲い掛かろうとするクワガーモン。 その鋭い牙が、一人崖の端に居た太一に迫っていた。 「太一、危ないっ!!」 が言葉を発するのとほぼ同じタイミングで慌てて走りだすも、既に助走をつけて迫ってくるクワガーモンにかなうはずも無い。 太一の背中に嫌な汗が伝った。 「タイチッ!」 その瞬間、大きな声を上げながらちいさなちいさなコロモンが必死に太一の元へ駆け出す。 そして、大きくジャンプをして太一の肩を飛び越え、牙をむき出しにしているクワガーモンの前に躍り出た。 「ぷぅ!!」 コロモンが吐き出した小さな泡が、クワガーモンにあたる。 そのおかげでクワガーモンの軌道が逸れたが、空中にいたコロモンはそれをよけることがかなわず、 硬い甲羅にその身体をぶつけ、後方に投げ飛ばされた。 コロモンの叫びを聞きつけ、太一が振り返る。 「コロモン!」 そちらへ走りたい衝動へ駆られる残りの子供たちだったが、 コロモンのおかげで上空へ逸れたクワガーモンが、浮いた身体を急降下させ今度は自分たちに襲い掛かろうとした。 叫び声をあげる子供たち。 その刹那、残りのデジモンたちがコロモンと同じく前に飛び出て、 小さな身体を命一杯に使い、泡をクワガーモンへ向けて放った。 今度こそ完全に身体のバランスを崩したクワガーモンは、背中から森に激突し、やがて姿が見えなくなった。 子供たちがいつの間にか伏せていた身体を起こし、見上げれば、そこには傷ついて横たわるデジモンたちの姿。 先ほどのコロモンと同じようにクワガーモンの巨体に跳ね飛ばされたのだろうか。 「ピョコモン・・・」 恐る恐る空が声をかけるも、デジモンは動く気配を見せなかった。 その向こうで、コロモンを抱えた太一の背中が見える。 「バカヤロウ!なんて無茶を!」 弱々しく目を開くコロモンだったが、まっすぐに太一を見つめて口を開く。 「だって・・・ボクはタイチを守らなくちゃ・・・」 「コロモン・・・」 自分のために傷ついた小さな身体を抱え、太一はただただその名を呼ぶことしか出来なかった。 慌ててデジモンたちの元へ駆け寄る他の子供たち。 ぐったりとしたその身体を抱えるも、出会った時のようにうれしそうに自分たちの名前を呼ぶ力は彼らには無かった。 「・・・マルモン?」 横たわった丸い身体を はそっと抱き上げた。 反応が返ってこないことに言いようの無い不安が胸に押し寄せてくる。 「マルモン、マルモン・・・」 触れるか触れないかの距離で頭を撫でてやると、うっすらと目を開いてくれたことに少しだけ安堵する。 すこしだけ、マルモンの表情がうれしそうに見えたのは、 の目の錯覚だろうか? が、それを確かめるまもなく、耳にケタケタという独特の鳴き声が届く。 それは間違いなく子供たちを先ほどから襲っていたクワガーモンの声だった。 怒りに震えているらしいその声の主は、あたり一面の木々をなぎ払い、子供たちの前に現れる。 迫り来る追跡者の気配を感じ取った子供たちは慌ててデジモンたちを抱えて崖の端まで逃げた。 他に逃げ道がなかったのだ。 それなりのダメージを受けているらしいクワガーモンはのっそりと立ち上がり、自分を傷つけた根源を見据える。 「アイツ、まだ生きていやがった!」 悔しそうにつぶやく太一。 そんな彼らの様子などお構いなく、大きな巨体を後ろ足二本で支えながら ガシッガシッとゆっくり子供たちへ向けて踏み出すクワガーモン。 さながら、狩をする肉食獣のように、明らかな殺気を子供たちへ向けてはなっている。 「くそ、このままじゃぁ・・・!」 もはや逃げる場所も無く、八方塞となった子供たち。 それでも は、腕の中にいるマルモンをしっかりと守るように抱きしめ、目の前の巨大クワガタを睨みつけていた。 自分がこの場の強者であることを示すようにクワガーモンはガキン、ガキンと自信の顎を鳴らす。 どこに目があるか解らないが、視線をそらしてはいけないと、本能が子供たちに告げる。 その緊迫した空気を壊したのは、太一の腕の中にいるコロモンだった。 「いかなきゃっ!」 「え?」 強い意志を含んだ声に、太一は驚く。 「ボクたちが、たたかわなきゃ、いけないんだ!」 「なに言ってるんだよ!」 慌てて制止する声をあげるも、コロモンの言葉をきっかけに他のデジモンたちも戦う意志を示していく。 「そうや、ワイらはそのためにまっとったんや!」 「そんな!」 「いくわ!」 「無茶よ!あなたたちが束になってもアイツにかなうはず無いわ!」 上手く力の入らない身体を必死に動かそうとするモチモンとピョコモンに光子郎と空が説得しようとするが、 二匹はそれでもクワガーモンを睨みつけるのをやめない。 「でもいかなきゃ!」 「おい!」 「ボクも!」 「オイラもぉ!!」 それまで大人しい一面しか見せていなかったのに、毛を逆立てながらヤマトの両手の中で暴れだすツノモン。 もはや言葉として聞き取ることも難しいほど叫びながらタケルの腕から抜け出そうとするトコモン。 ちいさな身体についているヒレを命一杯ばたつかせて引き戻そうとする丈に抗うプカモン。 「だめだよ、マルモン!」 「いかなきゃいけないの!」 尻尾をバタバタさせながら、マルモンもまた の腕の中で暴れまわる。 でも、さっきまでぐったりとしていたマルモンをあの怪物の元へやるわけには行かないと必死にしがみつく。 「タネモン!あなたも?」 不安げに耳が抱えているタネモンに訊ねるが、返ってきたのは揺ぎ無い肯定の言葉のみ。 「いっくぞっ!」 渾身の力を振り絞り、それぞれ子供たちの腕から抜け出した彼らは、 コロモンの叫び声に続いてまっすぐクワガーモンへ向かって走り出した。 「ピョコモン!」 「モチモン!」 「ツノモン!」 「トコモーン!」 「プカモンー!」 「タネモーン!」 「マルモンー!」 「コロモ〜〜〜ン!!!」 必死に飛び出した小さな小さなデジモンたちを追いかけようとする子供たち。 ただただ心配で 彼らが傷つく姿をもう見たくなくて 子供たちは必死に叫んだ。 そんな彼らの想いが、天に通じたのか、その時不思議な出来事が起こった。 空からまっすぐ光が刺し込み、一体一体のデジモンを照らしたのだ。 なにが起こったのかわからない子供たちはただ驚きの声を上げる。 しかし、驚くのはまだ早かった。 光に照らされた彼らは、突然「進化」をしたのだ。 「コロモン進化〜!アグモン!!」 「ピョコモン進化〜!ピヨモン!!」 「モチモン進化〜!テントモン!!」 「ツノモン進化〜!ガブモン!!」 「トコモン進化〜!パタモン!!」 「プカモン進化〜!ゴマモン!!」 「タネモン進化〜!パルモン!!」 「マルモン進化〜!ポニモン!!」 大きな叫び声だけがあたりに響く。 そして、眩い光が消えた頃、そこに居たはずの小さなデジモンたちが、 姿も形も大きさも変えてそこに立っていた。 「な、なんだぁ!?」 「行くぞぉ!」 デジモンたちは勢いよくクワガーモンに飛び掛る。 衝撃で一瞬体重を後方へやってしまったクワガーモンだったが、やはりパワーは彼らに勝るらしく、 前足で勢いをつけてすぐに8体のデジモンたちを投げ飛ばした。 しかし、先ほどと違い、8体のデジモンたちはすぐにまた立ち上がり敵を見据える。 そして、デジモンたちは自分たちの力を駆使し、すばらしい連携を見せる。 「ポイズン・アイビー!」 飛び上がろうとしたクワガーモンを、パルモンが伸ばした蔓で絡めとり、 飛ぶことが出来るパタモンとテントモンが「エア・ショット」と「プチ・サンダー」で衝撃を与える。 その攻撃が効いたのか、クワガーモンが地面に降り立とうとした瞬間に、今度はゴマモンが体当たりで足元をすくう。 思わず敵が膝を突いた瞬間を見逃さず、「ウォーター・スプレー」をポニモンが放ち、 クワガーモンが着こうとしていた前足を滑らせる。 「みんな、離れろ!」 クワガーモンの体制が崩れた瞬間、アグモンが先に攻撃を仕掛けてくれた仲間たちに指示を出した。 「ベビー・フレイム!」 「プチ・ファイヤー!」 「マジカル・ファイヤー!」 アグモン、ガブモン、ピヨモンにより放たれた炎は、次々とクワガーモンを襲い、確実にダメージを与えていく。 怒りを含んだ雄たけびを上げるクワガーモン。 が、すかさずアグモンの冷静な指示がまた仲間たちに出される。 「よし!もう一度だ!」 そして、8体のデジモンたちはそれぞれの必殺技をまっすぐにクワガーモンに向けて放った。 その技をまともに食らってしまったクワガーモンは、悲痛な叫びを上げ、身体に炎を纏いながら、 ゆっくりと森の中に背中から倒れていった。 ただただ唖然とその様子を見ていた子供たちの目には、 倒れていくクワガーモンを見つめるデジモンたちの背中が、非常に頼もしく見えた。 安堵のため息だった感嘆の息だったのか判断が付きにくかったが、 それが口から洩れた後に誰かが「やった」とつぶやいた。 おそらく太一の声だったのだろう。 でも、みんなの心にあったのは同じ言葉だった。 やったのだ、あのデジモンたちは、クワガーモンを倒してくれたのだ。 肩の力が抜けたのと同時に、デジモンたちもそれぞれ子供たちへ向かって走ってくる。 子供たちの名前を呼び、「やった、やった」と喜びをあらわにする彼ら。 「す〜げぇ!お前すごいぞ!よくやった!!」 子供たちもその喜びを分かち合い、手を取り合い大喜びをする。 「 〜!!」 「すごい、すごいよ!あんなの倒しちゃうなんてすごい!!」 まっすぐ のもとへやってきたデジモンは、広げられた腕の中にまっすぐ飛び込んできた。 はその体を抱きしめて、ぴょんぴょんと跳ね回る。 先ほどまではただ丸い形をした生物たったそのデジモンは、今では大き目な馬の人形のような姿をしている。 しかし、 は不思議と変わってしまった姿に戸惑うことはしなかった。 今はただ、うれしさで胸がいっぱいだったのだ。 しかし、その喜びも、長くは続かなかった。 またもがさがさと茂みを揺らし、倒れたと思ったクワガーモンが子供たちの前に姿を現したのだ。 いち早く気付いた空が、その一番近くにいた太一の名を鋭く呼ぶ。 「太一!」 「え?」 危機が迫っていることに気づいていなかった太一は間の抜けた声を発するが、 直後にクワガーモンの存在に気づき、ギリギリのところで振り下ろされたクワを躱すことができた。 空を切ったそのクワは地面に根深く刺さり、ヒビを作った。 その攻撃がかなりの威力だったためか、それとも攻撃を仕掛けた場所が悪かったのか。 クワガーモンが突き刺した場所を軸に、どんどんとヒビは広がっていった。 ビシビシと嫌な音が耳をつき、地面が揺れる。 ああ、そういえば、ここは崖の上だった。 その事実を思い出したころには、すでに地面は割れ、子供たちが立っていた場所は切り離されて傾いていた。 「うわ〜〜〜〜っ!」 空に投げ出された子供たちは、ただただ叫び声をあげることしかできなかった。 |
<アトガキ> バトルシーンや動きが多いと、どうしても自分の文才の無さを痛感します。 ああ、文章ってなんて難しいんだ! 状況が少しでも皆様に伝わっていてくれればと、ただただ願うばかりです。 さて、サクサクと進化していくコロモンたち。 主人公のパートナーデジモンは基本オリジナルデジモンで通します! 以下、ポニモンの紹介。 ポニモン 成長期 所属:ワクチン 技 :ウォーター・スプレー |