ずっと誰かに呼ばれているような気がしてた。


それがいつからかは、よく解ってない。


でも、目を閉じればその小さな声はずっと耳に響いていた。


それは今も同じ。
ただいつもと何か違うとすれば、今日はその声がやけに鮮明だと言うことくらい。







!」





誰?





「あたし、マルモンだよ!」





マルモン?





「うん!ずっとずっと、まってたんだよ!」







「待ってた?」

自分が発した声に吊られ、は意識を浮上させた。
重い瞼を持ち上げて、見えたのは少し紫がかった空と、何故か常夏の海辺に生えているような木の葉っぱ。

「あれ?キャンプ場にあんな木あったっけ?」
「あんなき?」

可愛らしい子供の声と共に、の視界に円らな瞳をもつクリーム色の何かが入り込んできた。
たっぷりと5秒間、はその瞳の持ち主とにらめっこをした。

「へ?」

ようやっと口から出たのはそんな気の抜けた声。
その瞬間、目の前の瞳の持ち主はうるうるとそれを潤ませた。

ー!」
「う、うわぁー!」

その生物が名前を呼びながらの顔を目掛けて飛んできたため、咄嗟に身体が動いてしまった。
ゴチン、ドシャッという二つの音が辺りに響き渡る。
前者はが後ろにあった木の幹に頭をぶつけた音、
後者がその生物が地面に顔面ダイブをした際に発生した音である。
それは、それぞれがしばらくその場で声もなく踞り動けなくさせるには充分な威力だった。

ようやく痛みが収まった頃には、停止していた思考回路も動き始めたようで、
は自分と同じように体を小さくしていた生き物に目をやった。

「だ、大丈夫?」
「いたいよ・・・ー・・・」

それはそうだろう。
なにせクリーム色の毛に覆われているにも関わらず、ぶつけたところが赤くなっているのが解るのだから。
は苦笑いを浮かべながら未だに蹲っているその子を抱き上げて撫でてやった。

「それにしても・・・」

周りを見回せば明らかにジャングル。
しかも、図鑑でも写真でも見たことがない草木が辺りに生息していた。

「ここどこ?」

どう考えたってキャンプ場の近くではないことは確かだ。

「ここはファイル島だよ!」
「ファイルとう?」

そんな島聞いたことない。

「えーっと、それであなたは・・・」
「マルモンだよ!」
「マルモン?」
「うん!ずっとずっとを待ってたんだよ!」

にこにこと本当に嬉しそうに笑っているこの生き物。
きっと地面においたら嬉しそうにぴょんぴょんの周りを飛び回っていることだろう。
純粋で愛くるしい笑顔を前に、頭の中のすべてを占領している疑問は一旦脇に追いやられ、
はその生き物を抱き締めた。
抱き締められたマルモンはとても嬉しそうな笑い声をあげた。

「ねえ、マルモン?待っていたって・・・」
「おわーっ!」

どういうこと?と続けようとしただったが、不意に大きな叫び声が耳に届く。

「あの声は!」

はマルモンを抱え直すと、そちらへ向かって駆け出した。







茂みを抜ければそこには見たことのある二人の子供とマルモンと同じような小さな生き物が二匹いた。

「やっぱり、ヤマトさん!」
!」

地面に座っていたヤマトと呼ばれた少年は、見知った顔を見つけて安堵した様子で立ち上がった。
その傍らにはオレンジ色の、角のはえた生物がいた。

「その子は?」
「あー!ツノモン!」

元気のよい声で答えを教えてくれたのはの側にいたマルモン。
もう一人の少年、高石タケルは周りの状況をものともせず、また別の生物と抱き合っていた。

!ここはどこなんだ?」
「それが、私にもよく解らなくって・・・」
「ここはファイル島だよー?」

代わりに答えてくれたマルモンは相変わらずニコニコ笑っている。

「うーんと、それは解ってるんだけどね・・・」

は苦笑いを浮かべた。
確認をしたいのは今自分達が地球上のどこにいるかということだ。

「ファイル島?」
「っていうらしいの。」

そう付け加えたが、ヤマトの表情は明るくならなかった。
やはり彼も聞いたことがないらしい。

「で、そいつは?」

ヤマトの視線はマルモンに注がれている。
やはりというか、見たことのない生物の存在は気になるだろう。

「目が覚めたらいたの。」
「はじめまして〜!あたし、マルモン!」

良い子のお手本みたいな挨拶をされ、ヤマトは言葉少なく反応を返した。
が苦笑していると、ふいにヤマトの足元に寄り添うようにいるツノモンが目に入った。
頬を染めながらこちらを見やる姿はなんともかわいらしい。
はしゃがみこみ、ツノモンに笑いかけた。

「こんにちは、ツノモン。です。」
「こ、こんにちは・・・」
「ツノモンは恥ずかしがりやなんだよ。」
「そうなんだ。」

確かに話しかけたとたんにますますツノモンの顔は赤くなっていた。

「ヤマトさんたちがいるってことは、祠で避難してた他の皆も近くにいるのかな?」
「かもな・・・」

だが、と言葉を続け、ヤマトは辺りを見回した。

「うん、こんな森の中じゃ探すのはなかなか難しいかもね・・・」

目の当たりにする現実を前に、二人は大きな溜め息をついた。
少し離れたところでは相変わらず仲良くじゃれている一人と一匹。
深刻そうに悩んでいるこちらと対照的な笑い声は、
今直面している現実を少し遠いものに感じさせてくれた。

「おい、タケル!あんまり離れるなよ!」
「うん!ごめんね、お兄ちゃん!」

ヤマトが声をかければ、タケルは素直に傍らにいる生き物と一緒にこちらへ駆けてくる。

「ところであのタケルくんと一緒にいるのは?」
「トコモンだよ!」
「へー。みんな最後に「モン」ってつくんだね。」
「そうだよー!」

嬉しそうに答えてくれるマルモンに笑いかけ、は走り寄ってくる二人に笑いかけた。

「こんにちは、トコモン。」
「こんにちはー!」
「タケルくん、怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫!」

元気なお返事を返したあと、タケルと真っ白な身体とつぶらな瞳が印象的なトコモンは
またその場でじゃれあい始めた。

「問題はどうやって他のみんなを見つけ出すかだな。」
「ノロシをあげるとか?」
「どうやってだよ?」
「えっ、えっと・・・」

微妙な間の後、二人の口から出たのはただのため息だった。

「どうしたの、二人とも?」

ため息に気づいたタケルが質問をしてくる。

「友達が近くにいるか解る方法ないかなーって思って。」
「トモダチ?タケルたちの?」
「うん、何人か近くにいるかもしれないの。」
「本当に?」

がトコモンに答えるとタケルが瞳を輝かせた。

「うん。ほら、タケルくんたちと私がこうして会えたでしょ?
 だからここに来る前に近くにいた人もいるんじゃないかと思って。」

うまく会えるか解らないけどね、と続けるとタケルの表情は少し曇ってしまった。
それを見て慌てて言葉を繋ごうとしたが、その前に思いがけない声が
ヤマトとの耳に飛び込んできた。

「ボクわかるよ!」
「え?」
「ホント、トコモン?」
「うん!」

タケルに元気よく答えると、トコモンはその腕から抜け出して地面に降り立った。
驚いた表情のままの二人を余所に、後ろ足に立って鼻をひくひくさせているトコモン。
そして、あ、と小さな声をあげたかと思うと走り出した。

「トコモン、どこいくの?」
「タケル〜!こっちだよ!」
「待ってよトコモーン!」

とたとたと駆け出していった二人を見て、先に我に返ったのはヤマトの方だった。
慌てて傍らにいたツノモンを抱き抱えるとタケルに呼び掛けながらその後を追いかけた。

「あ、待ってよ皆!」

置いていかれてはかなわぬととマルモンもその後を追った。










「こっちだよ〜!タケルぅ!」

どうにかヤマトの後ろを追っていくと、タケルを呼ぶトコモンの声が聞こえた。
はその声につられて茂みを抜け出す。
木の葉の音でよく聞こえないが、どうやら他にも誰かいるようだ。
大きな木を横切ると視界が開けた。

「待ってよヤマトさん、タケルくん!」
!」
「太一!空さん!光子郎くん!」

見知った顔を見つけは安堵の息を漏らす。
そして、辺りを見回すとやはりマルモンのような生物が数体その近くに居た。

「あ〜・・・ここにもいるんだね・・・」
「っつーか、お前も・・・」

恐る恐る指差す太一の指先はやはりマルモンを指していた。
その刹那、太一たちの背後から大きな悲鳴が上がる。
その茂みからはひどく慌てたような丈が駆けつけてきた。

「みんなぁ〜!」
「丈!」
「助けてくれ!変な奴に追われてる・・・」
「ヘンナヤツじゃないよ!プカモンだよ。」

息を切らしていた丈に追いついて肩に乗ったプカモンを見て、丈はまた悲鳴を上げた。
が、よく見ると他にもプカモンの仲間らしき生物たちが近くにいることに気づく。

「な、なんだこいつ等、一体・・・」

混乱しきっている丈。
そんな丈を尻目に、プカモンは笑顔で他の生物たちの元へいき、みんなで元気な声で行った。

「ボクたち、デジタルモンスター!」




















ようやく気持ちが落ち着いた頃に、それぞれの自己紹介をすることになった。

先ほど出会ったマルモン、ツノモン、トコモンのほかに、
ピンク色の丸い身体と赤いつり目が印象的なコロモン。
ぷくっと膨らんだ焼き餅のような形をしているモチモン。
青い花を咲かせているピンク色のピョコモン。
そして、先ほど丈と一緒に表れた茶色いほっそりとした身体にヒレをもつプカモン。

「デジタルモンスター」と自称する彼らへ子供たちは一人ひとり丁寧に自己紹介をしていく。
が、その過程で彼らは自分たちの仲間が一人足りないことに気づいた。

「ミミさんが、太刀川ミミさんがいません!」
「そうだ!四年生のミミくんだ!ボクはあの子に・・・」

光子郎の後に何かを丈が言いかけるが、その前に耳を劈くような悲鳴が辺りにこだまする。
慌ててそちらのほうへ駆けつける子供たちとデジモンたち。
開けた場所にたどり着けば、木々の間から同じく女の子が一人現れた。

「ミミちゃん!」

目的の少女を見つけ安心したのもつかの間、彼女の背後から巨大な赤いクワガタが飛び出してきた。

「なにあれ!?」
「クワガーモンだ!」

の声にそれまで既にそのデジモンと遭遇していた太一が答える。
クワガーモンは子供たちの頭上すれすれに滑空すると、そのまま森木々を破壊しながら進んでいった。

「ミミ、だいじょうぶ?」
「タネモン・・・」

しゃがみこんだミミの元へ空が駆け寄る。
そのすぐ近くには頭に双葉を生やした球根のような形の「デジタルモンスター」が
心配そうに彼女を見上げていた。

「また来るぞ!」

太一の鋭い声がまた響く。
森の中に消えたと思ったクワガーモンがまた子供たちを襲ってきたのだ。
急いでミミを立たせ、子供たちは走り出す。
デジモンたちも小さな身体を一生懸命使いその後を着いていった。

「伏せろ!」

ヤマトの声を合図に子供たちは地面にダイブする。
またしてもその頭上すれすれにクワガーモンが滑空していった。
まるで果てしない追いかけっこをしているようだ。

「なんなんだよこれは!一体ここはどういうところなんだぁー!?」

丈の叫びがまた木霊するも、誰も答える余裕など無い。
空を見上げれば、空中に舞い上がったクワガーモンがまた弧を描いてこちらに戻ってこようとしていた。

「またくる!」

ピョコモンが叫ぶ。

「どうすればいいの!?」

このままの状態がずっと続いてしまえば身体が持たない。
は眉を寄せた。
そこで痺れを切らした太一が立ち上がる。

「くそ!あんなヤツにやられてたまるかっ!」
「太一、無理よ!」
「そうだ!オレたちにはなんの武器も無いんだぞ!」

慌てて空とヤマトが太一を止める。
太一の近くに居た光子郎もまたその意見に同意した。

「ここは逃げるしか・・・!」

苦々しい表情を浮かべながらも、太一は走り出した。
他の子供たちもその後を追う。
後ろを振り返らずとも、ケタケタという鳴き声と羽の音が
クワガーモンがまだしつこくその後ろを追いかけてきていることを子供たちに教えていた。





<アトガキ>

「ずっとまっていたんだよ」は、デジモンたちの気持ちがすっごく表れている言葉ですよね・・・

さて、お気づきとは思いますが、「マルモン」はオリジナルデジモンです。

これまでのデジモンシリーズを全ては見ていないので、
どこかで名前がかぶっていないかドキドキしている管理人です。
いいんだ、この子はマルモンなんだ。
固定なんだ。
と、少し強気で行こうと思っています。
以下、マルモンの紹介。


マルモン
 幼年期U
 所属:データ
 技 :アワ



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