菅羅弥光樹(すがらや・こうき)は今日も任務に励んでいた。 なぜかわからないが、今回担当になったこの地区はかなり整・負の霊が多い。 とはいえ、光樹はもともと机にかじりついて事務作業をするよりは 体を動かすほうが好きなのでかなり遣り甲斐を感じていた。 そして、調度今も虚を片付けたときに近くにいた整を魂葬したところだった。 『うしっ、終わったな。』 そして、次の指令がきていないか確かめるために伝令神機を操作していると、 つい数日前に遭遇した人間の霊圧をすぐ後ろに感じた。 背後を見ればそこには想像していた人物がにこやかに立っていた。 「こんにちは、黒のお兄ちゃん」 『お、おう。』 光樹はなるべく普通に受け答えをしようと試みた。 彼女が自分の姿を見ることができるという能力は消せない。 しかし、すでに先日の記憶は消してあるので心配することはないのだ。 「また誰か天国に送ってあげたの?」 『ま、まあな・・・』 そう、そのはずなのだ。 まっすぐな少女の瞳を目で捉えながら、光樹は自分に言い聞かせた。 しかし、なぜか自らの中の「自信」という壁にヒビが入ったような気がした。 「今日はこの前みたいにお化けとは戦わなかったの?」 その瞬間、壁は大きな音を立てて崩れ落ちた・・・気がした。 が、光樹はわずかな望みをかけて口を開いてみた。 『な、なあ・・・』 「なぁに?」 『もしかして・・・お前この前のこと覚えてるのか?』 「うん!」 当たり前だといわんばかりに元気良く返された返事。 崩れた壁の瓦礫が塵になっていくのを光樹は感じた。 あの日から光樹は度々 と話すようになった。 も生きていないものと対話することに慣れているのだろう。 出会った当初から臆することなく彼女は光樹を見かけては元気よく駆け寄ってきた。 光樹も光樹で虚を目視できるほど霊力の高い が 自分から近くに来てくれることで守りやすくなる為、それを黙認していた。 「光樹お兄ちゃん!」 今日も赤いランドセルを背負いながら、自分を見かけて走りよってくる を 光樹は屋根の上から見ていた。 『おう!ちび!今日も元気だな!』 調度虚を倒した後もあり、すっきりとした気持ちで光樹は の前に降り立つ。 「うん!お兄ちゃんは今日もお化け退治?」 『ああ。今調度一匹倒したとこだ。』 得意げに言う光樹を見上げ、 は満面の笑みを返した。 『そうだ。ちび、これからちょっと時間あるか?』 「なんで?」 『ちょっと付き合ってほしいとこがあんだ。』 不思議そうな顔をしつつも、 は快く承諾した。 「・・・はら・・・・みせ?」 『読めるとこだけ読むなよ。』 どこか昭和の香りが漂う店の前で、 は大きな看板を見上げていた。 ぽかーんと口をあけている様を見て笑いながら、光樹は店の入り口へ足を進めた。 とたとたとその背中を も追った。 『ちわーっす!浦原隊長いますか?』 「おんや?珍しい人が来たもんだ。」 『お!隊長、お久しぶりっす!』 「アタシはもう「隊長」なんかじゃありまセンよ。」 『すんません。クセなんっスよ。』 「とかいいつつ、直す気はまったくなさそうっスねぇ。」 『あはははは。』 光樹が「隊長」と呼んだ男はため息をひとつ漏らすと、 そのままその珍しい来客の後ろにいる少女へと視線を移した。 胡散臭い雰囲気に不安を感じたのか、少女は光樹の袴の裾を握り締めながらその背後に身を隠す。 「それで?そちらのお嬢サンは?」 『ああ、コイツは最近任務で知り合ったガキなんですけど、 ちょっとコイツのことで相談があって・・・』 光樹はそういうと自分の後ろに隠れている少女を前に来るよう促した。 「お兄ちゃん、このオジサンは光樹お兄ちゃんのお友達?」 『お、オジサンって、お前っ!』 あせる光樹を置いて、浦原は笑いながらの元に行き、視線を合わせてやった。 「ええ、オジサンと光樹はちょっとばかし古い知り合いでしてね。 お譲ちゃんのお名前は?」 「です。」 「そッスか。オジサンは浦原喜助といいます。」 にんまりと笑いながら、頭をなでてやれば、少女はうれしそうな笑顔を向けてきた。 「んで?この子がどうかしたんッスか?まさか誘拐?」 『違いますよっ!』 「光樹にそんな趣味があったとは、いつからそんな子に・・・」 『だから違うっつってんだろ!馬鹿隊長!』 光樹は数日前に記憶置換を処置したこと、 そしてそれにも関わらずしっかりと置換したはずの記憶が残っている事態を説明した。 話を聞いた浦原はかなり驚いた顔をしてに目をやった。 記憶置換がうまくいかなかった例など今まで報告されていなかったからだ。 『ソウル・ソサエティに本当なら報告しなきゃいけねーんだろうけど・・・』 そう言って光樹はに目をやる。 目が合った瞬間、にっこりと笑顔を向けられれば、自然と同じ顔になっていく。 浦原はそれだけでなんとなく彼がなにを言いたいのかよく解った。 「確かに、あんまり報告したい話ではないッスね。」 それこそ、なにがあるかわかったものではない。 おまけに、下手をすれば彼女の身柄は十二番隊に預けられる。 そうなればどんな悲惨な未来が待っているか、それは浦原自身がよく知っている。 『すんません、隊長。』 「なぁに、慣れたもんッスよ。」 君の世話を焼くのはね、と目だけで告げる浦原の表情は、かつて光樹が眼にしていたものだった。 「ふむ。」 浦原はじっとを見た。 『どっスか、隊長?』 「なんとも言えないッスねー。」 やる気のなさそうな声を出して、浦原は振り返りながらこう続けた。 「この子は随分と霊力が高い。 おそらく、それがなんだかの影響を与えたんでしょう。 ま、詳しいことは一度調べてみないとなんとも・・・」 『そっスか・・・メンドクセーことになっちまったなー・・・』 光樹は今後のことを思い、天井を仰いだ。 「光樹お兄ちゃん?」 『なんでもねーよ。』 こちらの都合など一切知らないの頭を撫でながら、 光樹は少なくとも今の十二番隊長にこの子の存在を知られないよう努めることを決意した。 |
<コメンツ> え〜、既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、 「黒のお兄ちゃん」こと菅羅弥光樹(すがらや・こうき)さんはオリキャラです! 光樹さんは基本的に面倒見がとてもいいお兄さんです。 ちょっとめんどくさがりなところが玉にキズ・・・ でもいざとなったらやる男です! この方との出会いがヒロインの人生に大きく変化を及ぼします。 ここまで読んでくださってありがとうございました! また続きができたら読みにきてくださいね! |
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