「あー!お兄ちゃんまたゲームで遊んでる!にもやらせて!」
『だぁーから、遊ぶもんじゃないって言ってんだろ!』


ある日といるときに指令が入っているか確認をするために伝令神機を手にしてからと言うもの、
二人の間ではいつもこのやり取りが繰り返されていた。
どうやらたちの年頃の子供に流行している「げぇむ」と呼ばれる玩具に形が似ているらしく、気になって仕方がないのだ。

これには光樹もほとほと困っていた。
たまにこうして浦原商店にいるときも、喜助に助けを求めてみるのだが、ニヤニヤと笑いながら
「イヤー、仲良きことはなんとやらって感じッスねぇ〜」と返すだけで、騒ぎから程よい距離をとって傍観者を決め込んでいる。

『クソ隊長・・・部下が困ってんのをいっつも面白がりやがってっ・・・』
「仕方がありまセンよ。これがオジサンの楽しみなんデスから。」

それに、もう隊長じゃあありませんって、と言葉を続け、愛用の扇子をパタパタと揺らした。

「大体光樹は昔から子供の扱いに慣れてるんだからそれくらいどうにかできるでショウに。」
『いや、まぁ・・・』


がテッサイの持ってきたお菓子に気をとられている隙にそばにやって来た光樹に浦原は言った。

『いや、なんかアイツ相手だと上手く叱れなくって・・・』
「充分怒鳴ってるじゃないッスか。」
『なんつーか、調子が狂うっつーか・・・』
「聞いてます?」
『とにかく、今まで相手してきた子供たちと感じが違うんっすよ!』
「あー、そーですか。」

確かに思い返してみれば、光樹がよく相手をしていたのは町中にいるやんちゃ坊主たち。
喜助には解らないが、大勢の子供たちと一人、それも女の子では多少勝手が違うのだろう。

ぶつぶつとなにか言っている光樹から視線をそらしの方を見れば、黒猫と隣り合わせに座りながら美味しそうに駄菓子を食べている。
猫ものことをかなり気に入っているのだろう、大人しく撫でられながらその横で身体を丸くさせていた。
その光景を微笑ましく思いながら眺めていると、がなにかに気がついたようにキョロキョロと辺りを見回した。

「お兄ちゃん、ポケベルなってるよ?」

見れば先ほど光樹がいた場所に小さな機械が転がっていた。

『お?ありがとな、ちび。』

光樹は軽く礼を言うと、すっと立ち上がり、手にした機械でなにやら操作を始めた。

「にしても、随分と旧式の受信機を使っていますネェ・・・」
『仕方ないじゃないっすか!最新式は今まだ手が出せないんっすよ・・・!』

何回かボタンを押したあと、光樹はの言う「げぇむ」と「ぽけべる」をコードで繋げ、またボタンをいじる。

『うしっ!っと、随分近けぇな。
 すんません、浦原隊長!虚叩きのめしてくるんで、預けといていーっすか?』
「ハイハーイっ!いってらしゃーい。」
「お兄ちゃん、またオバケと戦いに行くの?」
『おう!すぐ戻ってくるからな!大人しくしてろよー!』
「うん!」

光樹はにやりと笑い、ワシャワシャとの頭を撫でると、姿を消した。
残されたは光樹が去った方向を確認すると、小さく手を振った。
目に見えぬ速さで消えたにも関わらず、正確にその方角を捉えているのはさすがというべきか。
ここ数日の間のことを観ていて、彼女はとくに霊圧を感知する能力に優れていることがわかった。

は少し見ている方角を探るような仕草を見せると、またいつものようににっこりと笑い、
元の座っていた座布団に戻って持ってきたランドセルをあさり始めた。
近くにいたテッサイもその様子を確認すると、お盆を片手に席をたった。
恐らく片付けを済ませてからの宿題を見てやるつもりでいるのだろう。

「イヤー、ウチの店も知らない間に随分暖かい空気が流れるようになりましたネェ。」
「なんじゃ、喜助。なにか不満でもあるようじゃのぅ。」

声がした方を浦原が見やれば、の隣で寛いでいた黒猫の瞳がこちらを向いていた。

「別に不満に思ってマセンって。」
「そうかの?儂にはお前さんが居心地悪そうにしているように見えるが?」

黒猫は、するっと滑らかな動作で起き上がると、器用に口で声を発しながら浦原の傍に腰掛けた。

「まあ、慣れない空気ではありますねぇ。」
「つくづく男と言う生き物は順応力がないのぅ。」
「夜一さんがありすぎるんじゃないッスか?」

夜一はふんと鼻を鳴らすと、優雅な動作で浦原から視線をはずした。
その視線の先を追えば、予想通り今日の分の宿題に取り組むの姿がある。
傍らには眼鏡を光らせ、その進み具合を確認しているテッサイ。

「本当に、生暖かい空気だ。」

浦原の言葉に何も返すことなく、夜一は静かに瞳を閉じた。










そろそろ日が傾いてきたころ、を家まで送ってきた光樹が帰ってきた。
帰ってきた、という表現を使うのはなんだか不思議に感じるが、
光樹はをこの浦原商店へ連れてきた日から度々ここで寝泊りさせてもらっているので、
この表現が一番適切だ。

『ちーっす。』
「おかえんなさい。」

居間にたどり着いたとたん、腰を下ろす光樹。
その姿を見て、浦原はまたお茶をすすった。

「なんだかお疲れみたいッスねぇ。」
『いや〜、途中でまた虚が出たんで退治したんっすよ。』

って、隊長なら知ってるか、とテッサイに出された茶をすすりながら光樹は続けた。

『なんか、この町やたらと虚の出現率が高くないっすか?』
「現世ってもんはそれなりに虚が現れるもんッスよ。」
『いや、そうかもしれませんけど・・・』

ぶつぶつとなにやら呟く光樹を横目に、浦原は小さな笑いを漏らした。

「光樹も現世の駐在任務は初めてじゃないでしょうに。」
『いやけど、前来たときはこんなに斬魄刀振り回してませんでしたって!』
「ほう!じゃあ、光樹の霊力が向上したのかも知れませんねぇ。」
『まじっすか!?』
「それか伝令神機の性能が上がったんでしょうねぇ。」
「そちらのほうが可能性はあるな。」
『なんだよ、ちきしょー・・・』

光樹は肩を落とした。
コロコロと表情を変えるその様は昔と変わりがない。
浦原商店の面々は笑った。

「伝令神機といえば、光樹。」
『なんっすか、夜一さん?』
「お主、にあれを触れさせるのをえらく渋っておるのう。」
『あー・・・。』

伝令神機をに見られる度に毎回起こる騒動を思い出し、光樹は渋い顔を見せた。
ちょっとした喧嘩を毎回している気分だ。
光樹もその状況を快くは思っていない。

『っつーか、隊長たちも傍観ばっかしてないで手伝ってくださいよ!』
「別に良いじゃないッスか、触らせるくらい。」
殿が壊すとも思えませんしな。」

渋い顔をする光樹をよそに、浦原とテッサイは笑い声を上げる。
その様子を静かな目で見ていた夜一もまた二人の意見に賛成していた。

「儂もが伝令神機を乱暴に扱うとも思えんのう。
 よいではないか、一度触れさて「げぇむ」とやらではないと理解すればも諦めがつくじゃろう。」
『いやま、そうかもしれないっすけど・・・』

光樹はなおも渋い顔を見せていた。
そして少し言葉を捜している様子を見せながら頭をかく。

『一応、仕事道具じゃないっすか。
 それを触らせるのはちょっと・・・だめなような気がして・・・』

なんとも歯切れが悪い光樹へちらりと夜一は視線を向けた。
これは建前上の理由だろう、としっぽを振りながら夜一は思った。
本心でそう思っているのであれば、この男はもっとはきはきというはずだ。

「なにか他に気になることでもあるのか?」
『・・・伝令神機って、壊れたら十二番隊に持ってくじゃないですか・・・』

それだけ聞いて、その場にいる面々は光樹が危惧していることに納得した。

『あんまし俺の持ちもん触らせたくないんっすよ。残留霊子が残りそうで・・・』
「じゃあ、そう言えばいいじゃないッスか。」
『だから、それが言えたら苦労しませんって・・・』

不貞腐れたような声を漏らし、光樹は出されたお茶を呷った。
その様子を浦原商店の面々はただ苦笑いを浮かべて見やっていた。



















その後も、二人が「げぇむ」を巡ってやりとりをするのは度々目撃される。
もはやお約束となってしまったこのやり取りは、ある種のじゃれ合いのようにも見えてきた。

『だーから、ダメだって言ってるだろうが!』
「なんで?なんで?」
「今日も平和ッスねぇ。」

ずずっと熱いお茶をすする喜助はにこやかにその様子を眺める。
すると、どこからかピキーッピキーッと耳につく電子音が聞こえてきた。

『なんだ?』
「あ、エッグっちが呼んでる!」

たたっとランドセルの方へ走りよると、はそこから何かを取り出した。
見れば光樹の持つ「ぽけべる」とよく似た小さな機械がその手に握られている。

『なんだ、それは?』
「エッグっちだよ。今学校で流行ってるの!」

どうやら機械の中にいる疑似生物を育てる「げぇむ」と呼ばれる玩具らしい。
なるほど、「げぇむ」とはこういった機械仕掛けの玩具なのかと妙に納得してしまった光樹。

『よくできてんなぁ・・・』

それにしても、その形は光樹がもっている「ぽけべる」と大差ないように思える。

「あのね、光樹お兄ちゃんの持ってるポケベルにちょっと似てるでしょ?
 だからこの形にしたんだ!」
『そうか。』

にこにことそんなことを笑顔で言われては悪い気はしない。
なんとなくほのぼのとした気分になって光樹は小さなその頭を撫でてやった。

「そういえば、ちゃんは「ぽけべる」には興味を示しませんねぇ。」
『え?』

何気なくつぶやかれた言葉を聞いた光樹の顔は、まるで豆鉄砲を当てられたかのようだ。

「なんじゃ、気づいておらんかったのか?」
『いや、まあ・・・』

少し戸惑い気味の表情を見せる光樹を見て、夜一は小さくため息をついた。

。」
「なぁに、夜一さん。」
「お主、光樹の持ち物でポケベルには触れないのじゃな。」
「うん。だってポケベルってお仕事の為の物でしょう?大切なものだから触っちゃダメって前言われたもん。」

にこにこと笑って言ったを光樹は見つめた。

「なるほど。ちゃんと説明されたから納得して触らないようにしていたんッスねぇ。」

光樹はなんだか、目からうろこが落ちた気分だった。
そういえば、いままで「げぇむ」を巡ってやり取りをしていた際、の言う「げぇむ」ではないとは言ったが、
あれがなんであるかはきちんと説明はしていなかった。

光樹はちらりと「げぇむ」を見やる。

『確かに、あんなんじゃ納得しねえわな。』

机の上に置いてあった「げぇむ」を手に取り、光樹は立ち上がった。

『おい、ちび。』
「なぁに、光樹おにいちゃん。」

の前で胡坐をかき、光樹は目の前にげぇむとポケベルを差し出した。
はちょこんと座ったまま、まんまるな瞳を光樹に向けた。

『この「げぇむ」と「ぽけべる」な、お前の知ってるやつと形が似てるんだろ?』
「うん。」
『それはこれがその「げぇむ」と「ぽけべる」に似せて作ってあるからだ。
 けど、これはちっと中身が違う。白い仮面のお化けいるだろ?』
「うん。光樹お兄ちゃんが倒してるやつだよね。」
『そうだ。あれは「虚」っていう。
 んで、この「げぇむ」と「ぽけべる」はその虚を見つけるためのオレの仕事道具だ。』

そうして光樹は手にしていたその二つの道具を床に置いた。

『こっちの「ぽけべる」は受信機な。虚を見つけたら音が鳴る。いつもが教えてくれてるな。』
「うん!」
『ただ、これだけじゃ虚が何処に出てくるかはよくわかんねぇ。だから、こっちの「げぇむ」とこうやってつなげる。』

いつかと同じように光樹はコードを受信機から伸ばし、「げぇむ」につなげた。
そして、「げぇむ」を少し操作する。
すると、レーダーの様な波がその画面に映った。

『これで、何処に虚が出てくるかがわかる。この二つの機械を「伝令神機」っつーんだ。
 これを使ってオレは仕事してるんだぜ。』
「そうなんだ。わかった!」
『うっし!いい返事だ!』

わしゃわしゃと頭を撫でてやればキャッキャと楽しそうな声が上がる。

「光樹お兄ちゃん。」
『おう。』
「教えてくれてありがとう。」
『・・・・・・おう。』

少し面映ゆい気持ちが光樹の胸に広がった。



この日以降、と光樹の「げぇむ」の取り合いは見られなくなった。
光樹は前よりもきちんとに物事を説明するようになる。
そして、はそうやってきちんと向き合ってくれるようになった光樹にますます懐くのであった。





<コメンツ>
ちっちゃい子って、ちゃんと説明してあげるときちんと納得してくれるんですよね。

ちなみに、このお話で出てくる「伝令神機」は管理人の妄想のたまものです!
実際の原作がどうなのかは知りませんのであしからず。

さて、今回は微妙に心配性で過保護になり始めている光樹さん。
そして、それを見守りつつからかう浦原商店の面々。
そんな和やかな空気は、店長さんは居心地がいいようで、どこか慣れないのでしょう。

それにしても、光樹さんはいろんな人に振り回されるな。
きっと程よいくらいのからかわれ体質なんでしょう。

ここまで読んでくださってありがとうございました!