気まずい。 そう思っても次の日の朝は来るもので、 私はやっぱり早めに学校に登校してもやもやとした気持ちを晴らしに来た。 人気の少ない空間は、心を落ち着かせるのにはいいみたいだ。 空けた窓から入り込んできた風に髪を遊ばせて、気持ちを入れ替える。 今日の風は、少しいたずらっ子。 そんなことを考えていると、自然と笑みが浮かんできた。 がらりと教室の扉が開く。 入ってきた霊圧は、彼女の物だ。 少しだけ勇気を出して振り向いた。 「おはよう、朽木さん。」 「・・・ああ。」 彼女の瞳は、まっすぐ私に向かっていた。 でも、昨日のような鋭さはない。 不思議に思いながら臆病な私は言葉をつづけた。 なるべく、いつもの様に。 「今日も早いのね。」 「貴様もな。」 「黒崎くんは?」 「そのうち来るだろう。」 「あら、じゃあ朽木さんだけ先に来たんだ。」 「まあな。」 「・・・・・・。」 「・・・・・・。」 会話が途切れてしまった。 ふむ、どうしよう。 「。」 悩んでいるところで名前を呼ばれ、私は慌てて視線を朽木さんへと戻す。 「なあに?」 「昨日の事だが。」 「あ、うん。」 心臓が脈打った。 そうだよね、やっぱり納得いかないよね。 私は覚悟を決めて、彼女の次の言葉を待つ。 「すまなかった。」 「え?」 「誰にでも言いたくないことはあるものだ。それを失念して攻め立てるように問いただしてしまった。」 なんだか肩透かしを食らった気分になって、私はぽかんと朽木さんを見上げた。 てっきり、今日も問いただされるかと思ってたから。 「ただ、これだけは確認しておきたいことがある。」 ああ、やっぱり。 私はまた僅かばかり肩に力を入れた。 「。」 「うん。」 「貴様、人間か?」 真剣に聞いてくる彼女。 その問いに私は、笑った。 「何故笑う!」 「・・・ごめんなさい。」 だって、そう来るとは思わなかったし。 それに聞き方によっては結構失礼な質問だったんですもの。 「ふふ。その質問が、私がソウル・ソサエティとは関係がない生きた人間なのか、という意味なら、その通りよ。」 「・・・・・・。」 朽木さんの静かな目はまるで私に先を促しているようだ。 マシンガンの様に質問を浴びせられないことに少し安心して、私は続けた。 「確かに、普通の人とは違うところもたくさんあるわ。霊は見えるし、虚と戦える。でも、私はただの生きた人間よ。」 「貴様、ソウル・ソサエティを気にしていたな。それは何故だ。」 「好奇心。」 短く答えても、彼女の表情は変わらなかった。 でも、昨日よりとても落ち着いた雰囲気。 おかげで私もすんなりと言葉を続けることができた。 「私小さい頃に死神さんと仲良くなったって前に言ったわよね。」 「ああ。」 「その人がいたおかげで、今の私がいる。こうして生きて、ここにいられる。」 瞳を閉じれば、今でもあの頃のことを思い出せる。 グリグリと力強く私の頭を撫でてくれた手や、自信に満ちた笑顔。 私の心の支えでもある、大切な思い出。 「だからね、ソウル・ソサエティの事が気になって仕方がなかった。 私が行ったことのない、その人が来た場所だから。」 瞳を閉じて穏やかに語るの表情はとても優しいものだった。 「そうか。」 「うん。」 再び開けられた瞳は、一点の曇りもないまっすぐさがあった。 嘘や偽りのない本心からの言葉だ。 そう、私に伝えた。 まだまだ聞きたいことはたくさんある。 能力の事。 ソウル・ソサエティの事を知った経緯。 彼女と関わった死神のこと。 だが、私はその想いを一先ず胸の中にしまうことにした。 「。」 「なに?」 「その、改めて言うが、昨日はすまなかった。」 「ううん。こっちこそ、ごめんね。」 そうして、はその表情をさらに柔らかいものにした。 奇妙な女だ。 掴みどころがない、とすら感じる。 これほどたくさんの笑顔の種類を持つ人物は初めてだと、思った。 そして、これほど柔らかい雰囲気をいつも纏っている人物もそうそう居ないだろう。 自分の感じた直感を信じてみようと私に思わせるほど。 甘くなったものだ、と頭の片隅で自分に指摘する。 この様な曖昧な直感を信じようとするなど、と。 しかし、邪気がないのだ、この少女には。 ただにこにこと笑い、まっすぐに見て返してくる瞳には、裏がない。 掴めない、それでも裏がない。 その事実が不安を煽るようなものではないことが、不思議で仕方がなかった。 学校につけば、朝先に行くと言って出て行ったルキアの姿を見つけた。 しかも、と普通に話している。 その光景にどこか安心して、オレは席に着いた。 いや、まあ安心するだろ? 昨日あんだけルキアが詰め寄ったんだから。 って、なに言い訳してんだ、オレ。 妙な自問自答をしながら、オレはカバンの中からノートを取り出した。 今日の時間割は・・・ 「黒崎くん。」 「おう。」 声に振り返れば、がオレの隣にいた。 「はよ。」 「おはよう。」 「ルキアはいいのか?」 「うん。ちゃんと仲直りしましたのでご報告。」 にっこりと笑っていうと、は飴玉をころころっとオレの机の上に置いた。 「なんだ?これ。」 「よかったら食べてね。」 はそれだけ言うと自分の席へ戻って行った。 礼、のつもりなのか? 置かれた飴玉をするっと包みから出す。 赤い色がやけにきれいだと思いながら、それを口に含んだ。 イチゴ味。 「一護、おはよ。」 今度は水色だった。 「さん、なんだったの?」 「あー、多分、礼?」 「ふーん。最近、彼女と仲いいよね。」 「そうか?」 「うん。」 水色はそこでにっこりと笑った。 あー、これは、なんか含みがある笑い方だな。 同じ笑顔でもとは違うんだよな。 「なんだよ。」 「別に。もし相談したいことがあったら、いつでも言ってね。」 「は?」 なにを?と問い返す前に、啓吾の乱入でタイミングを逃した。 ギャーギャーといつもの様に騒ぐのを呆れて眺めながら、水色と二人で啓吾に突っ込みをいれる。 相談、ね。 とりあえず、今はとくにねえな。 ああ、ねみぃ。 「今日は調子いいッスね。」 いつもの様に修行をしていたら、喜助さんにそう声をかけられた。 「うん!」 思わず飛び出た肯定の言葉は思った以上に元気だった。 仕方がないじゃない。 朝一番に昨日引きずってたものが解消。 今日は部活でも調子がよかったんだ。 修行も、すっごく調子がいいんだもん。 浮かれます。 私を見ていた喜助さんは笑みを深めて、それ以上はなにも突っ込まないでくれた。 「んじゃまあ、折角調子もいいみたいですし、ちょいとばかし難易度上げまショウか!」 「はい!」 喜助さんの言う「ちょいとばかし」あげられる難易度にワクワクしてしまう辺り、私はやっぱり変わり者かもしれない。 世間一般では、ね。 でもまあ、そんな常識を持った人間はこの浦原商店にはいないわけでして、 かくして私は、今日も元気に四報連珠を操りました。 ああ、でも今日は本当に調子に乗りすぎちゃったかも。 このアザ、明日までに消えるかしら? |
<コメンツ> アザは、きっとテッサイさんが消してくれました。 さて、久々すぎる更新にびっくり。 ようやっと続きが書けました! Logでは「次回は騒がしいアイツを出す予定」みたいなこと言っておきながら、 いろいろな都合で次回に持ち越しちゃいました。 なかなか連続してアニメの話盛り込めないですね・・・ 次回こそ!ヤツを出します! |
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