4限目が始まろうとしている頃、虚が出てくる気配を感じた。 この前の反省を生かして、すぐに教室を見回してみる。 黒崎くんの姿が見えない。 あ。 そういえばさっき登校してきた朽木さんが彼を殴って倒した後、ずるずると引きずって保健室へ行くと言っていたっけ。 クラスのみんなのなんとも言えない表情がすごかったな。 あれからまだ帰ってきていないのかしら。 「ちょっと探るくらいなら、いいよね。」 自分にそう言い聞かせて、私は気を集中させた。 意識の範囲を少しずつ広げていく。 教室を出て、廊下、校庭・・・ 学校の敷地全体をちょっと上から見下ろす感覚。 「あ、いた。」 「?なんかいった?」 「ううん、なんでもないよ。」 たつきに笑顔で答えながら、意識を二人がいる場所に照準を合わせる。 校庭の渡り廊下付近に二人しているらしい。 あら? 感じたことのない霊圧が一つ。 「誰だろ?」 疑問に少々首をかしげてみる。 でも、朽木さんと黒崎くんがそこから動き出したから、気にしなくってもいいのかな。 ん〜・・・ ・・・・・・なんか、また黒崎くんが朽木さんに引きずられているような気が・・・・・・ ま、いいか。 でも、後で私はその時感じた違和感について深く考えなかったことをほんのちょっと後悔することになるのだった。 お昼休みを知らせるチャイムが鳴る。 と同時に、勢いよく織姫が席を立った。 「やっほーい!お弁当だー!!」 「まーたこの子は!お昼くらいでそんなはしゃがないの。」 「なに言ってるの、たつきちゃん!健全な女子高生たる者、学校にはお弁当食べに来ているようなもんですぞ?」 騒がしく主張する織姫を見ていると何だか微笑ましい。 「たつきちゃん、今日のお弁当はなに? あたしは食パンとあんこ!」 「よしよし、残念ながらあたしは普通の弁当よ。」 食パン一斤は、微笑ましくないけど。 「たつき、織姫。一緒に食べよ。」 「おう。」 「あ、織姫の缶詰、粒アンだ。」 「ん〜!おいしいよ!ちゃんも食べる?」 「う〜ん・・・あとでね。」 そうこうしているうちに千鶴が織姫に抱きついたり、といつもの光景が広がる、はずだった。 ある男の子が窓から入って来るまでは。 突然窓から現れたその侵入者にクラス中、騒然。 私も、開いた口がふさがらない。 「あんた!どうやって来たのよ!」と騒ぐたつきに、彼はさも当然というように「飛び上がってきた」という。 「な?すげーか?びっくりしたか?」 嬉しそうに笑う彼は、まるで悪戯が成功した小さな子供だ。 ただ、問題は彼の姿が黒崎くんであるということ。 その事実が余計に混乱を招く。 だって、こんな顔をする黒崎くん見た事ないものね。 あ、それより、ここ3階だよ、黒崎くん(仮)。 普通の人間は飛べないよ。 そんな突っ込みを心の中で入れているそばで、黒崎くん(仮)は動き出した。 織姫をくどいて、手の甲にキッス。 止めに入ったたつきに「お前も近くで見るとかわいいなぁ」とほっぺにチュー。 クラス中、大騒ぎです。 特に、たつきが。 あ。 「ああ、私の机が・・・。」 黒崎くん(仮)に向けて放り投げられる机の数々。 窓も割れているし、こういうのを大惨事っていうのかしら。 思わずため息が漏れた。 これ以上はさすがに見ていられなくて、私は騒いでいるたつきの前にでた。 「!どいて!殺さなきゃ気が済まない!」 「ま、まあまあ。たつき少しは落ち着こうね?」 「これが落ち着いていられるか―!」 あ、また机が宙を舞った。 黒崎くん(仮)はひらりとそれを躱すと、なぜか私の近くに着地した。 「美しいお嬢さん、助けようとしてくれてありがとう。ぜひ僕にお名前をお聞かせください。」 「あんた!にまでなにしてんのよ!」 懲りないなぁ・・・黒崎くん(偽)。 でも、一応私がすぐ傍にいるからかたつきの攻撃が一時的に止まった。 「よ。」 「素敵なお名前だ・・・!是非ボクとお近づきに。」 「ごめんなさい、難破男は嫌いなの。」 あえてにこりと笑顔を見せる。 そして、取られていた右手を軸に右足を大きく振り上げた。 反射神経が良い彼は、寸でのところでそれを交わす。 「黒スパッツ!それはそれでいいっ!!」 「啓吾、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」 小島くんに同意です。 「なんだよ、可愛い顔して怖いことするなぁ。」 「それは失礼。でも、蹴りだけじゃすまないかもしれないわよ。」 「あ?」 黒板まで下がった彼に向かって四報連珠を繰り出し、顔の真横に突き刺す。 ドカッと黒板に穴が開いて、またクラス中でざわめきが広がった。 「い、今・・・勝手に黒板に穴できなかった?」 「、何か投げたのか?」 口々に言うクラスメイトたち。 一方で黒崎くん(偽)は目を見開いて固まっていた。 その視線はしっかりと黒板へ伸びている四報連珠をとらえている。 やっぱり、見えるんだね。 連珠を引き戻しながら、頭で思うことは一つ。 どうやって黒崎くんの身体から彼を追い出すか。 一先ずは捕獲することが先か、と思った瞬間、教室のドアががらりと開いた。 「そこまでだ!」 入ってきた朽木さんを見て、黒崎くん(偽)は焦った顔を見せ、教室の窓の方へと走って行く。 「行ったぞ、一護!」 『オウ!』 黒崎くん(偽)逃げた窓の方から死神姿の黒崎くんが姿を現す。 挟み撃ちだ。 じりじりと距離を詰める二人。 空気が止まる中、先に動いたのは黒崎くん(偽)の方だった。 窓側にいた黒崎くんに向けて素早い回し蹴りで威嚇した後、数発さらに彼に蹴り込む。 霊体である彼に触れられるなんて・・・ 「黒崎くん・・・」 「一人で何してるのよ・・・!」 「知るか!」 周りのざわめきが耳に入った。 まずい。 この騒ぎをどう納めればいいの・・・。 そんなことを考えている間にも黒崎くん(偽)は黒崎くんを蹴り飛ばす。 「黒崎くん!」 吹き飛ばされた彼はそのまま机の列に突っ込んだ。 「ポルターガイストよ!」 ざわめくクラスを余所に黒崎くん(偽)はニヤリと笑って、窓からまた出て行った。 「あばよ!」 慌てて駆け寄る。 普通の人ならば骨折するような高さから、軽々と地面に着地する姿が見えた。 「うそ。」 『どうなってやがるんだ。アイツ、一体・・・』 「奴はまさか・・・いや、間違いない。奴は改造魂魄だ!」 「朽木さん、なんなのそれ?」 「今は説明をしている暇はない。とにかく奴を追うぞ、一護!」 『オウ!』 黒崎くんはそのまま窓から出て行った。 朽木さんも踵を返して扉へと向かう。 「あ、朽木さん!」 「、後は任せた。」 「え?」 そこでぽーんと投げ寄越されたのは、小さな機械。 っていうか、なんか見覚えがあるんですけど、これ。 「朽木さん!?」 慌てて呼び止めたけど、既に彼女の姿はそこにはなかった。 私は手の中にちょこんと収まっているのは記憶置換装置。 ため息が漏れる。 朽木さん、私これ使ったことないんだけど・・・。 でも、仕方がないよね。 今日のことを覚えていられると私にもちょっと都合が悪い。 いや、でもね? これを友達とかに使うのってどうなの? 確かに都合が悪いんだけどね・・・ そんな自問自答を繰り返して、ようやく決心がついた。 辺りを見回す。 未だにざわついているクラス内。 その中に彼はいない。 それを確認すると、私は大きく息を吸い込んで、 叫んだ。 「いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 クラス中の視線が集まるのを確認して、 私は静かにボタンを押した。 改造魂魄を追って辿り着いた倉庫の中で、一護は盛大に頭を抱えて悶絶し始めた。 「お前も見たろ!?あの教室の騒ぎ!! オレ、っていうかアイツはオレの身体使って井上やタツキのボディにキ・・・キ・・・!」 「キッスをしたようだな。」 「ぐぁ〜!言うなボケ!恥ずかしい!!!」 接吻如きで騒ぐなど、まだまだ青い。 しかし、一護は盛大に顔を赤らめて騒ぎ立てていた。 まったく。 「こないだ読んだ書物の中ではもっとすごいことが行われていたぞ。」 「一緒にすんな!ただのクラスメイトにいきなりキスして、大したことねえわけねえだろ! どんな本読んでんだテメエは! うわぁ!コツコツ積み上げてきたオレのイメージがぁ!!」 コヤツ、イメージ作りとかしていたのか・・・ 予想外の事実に多少驚かされる。 だがまあ、おそらくは心配ないだろう。 とっさではあるが、に記憶置換装置を渡しておいた。 使い方くらいは知っているだろう。 ま、面倒なので一護にはそのことは黙っておくとしよう。 夕方、浦原商店に寄ったら、微妙な雰囲気をまとった喜助さんがいた。 理由を聞こうにもジン太は妙に機嫌が悪かったので放っておくことにした。 テッサイさんは忙しそうだし、いつも通りなのは雨だけだ。 「雨、今日はなにかあったの?」 試しに聞いてみたけど、少し言いづらそうだったので、話題をすぐに変えた。 今日は学校といい、浦原商店といい、普段と違う事ばかりが起こるな。 そういえば、黒崎くんと朽木さん、あの後戻ってきたけど、詳しい話はまだ聞けてなかった。 記憶置換装置はちゃんと返したけど・・・話聞く権利くらいはあるよね? 小さな自問自答はひとまずおいておいて、私は頭を修行に切り替えることにした。 僅かでも友人たちの記憶を奪ってしまったという罪悪感は、修行に集中すれば消えるだろうか? 自問してみても、相棒は答えてくれるはずもなかった。 |
<コメンツ> あら?気が付いたらオレンジ色が登場しなかった・・・ じ、次回でてくるはず!です! |
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