チャドがインコを連れて学校へ来た。 それも、普通のインコじゃなくて、子供の霊が取り付いているヤツだ。 ルキアと話し合って夜、その霊を魂葬しにいくことを決めた。 だが、その前に事件は起きた。 チャドが虚に襲われて、ウチに運び込まれたんだ。 その上、朝になったらアイツはインコを連れて逃げやがった。 アイツ、自分が危ねえってのになにやってやがんだよ! 俺たちは朝からチャドとインコを追って町中を走り回ることになった。 朝起きて、学校へ行く準備をしていたら、虚の気配を感じた。 慌てて窓の外を確認したら、家の前をチャドくんがものすごいスピードで走り去っていった。 ―あのインコ! 彼が抱えているインコからは、それほど強くないけれど、なにか霊的なものを感じ取ることができた。 きっと、さっき感じた虚の気配となにか関係があるんだ。 私は彼の後を追いかけることにした。 急いで階段を下りて外へ出れば、当たり前だけどチャドくんの姿はどこにもなかった。 虚の気配も遠のいてしまっている。 嫌な汗が頬を伝った。 少なくとも、私の知る限りチャドくんには霊を見ることも感じることもできるだけの霊力はない。 仮に虚に狙われている場合、捕まってしまえば確実に命を落とすことになる。 まだ間に合うことを祈りながら、私は走り出した。 所々で立ち止まってはインコの気配を探す。 こんなとき、自分の探査能力がある程度優れていることに感謝する。 インコの霊力がとても小さくても、この程度の距離ならちょっと集中すればすぐに足跡をつかむことができる。 「こっちね。」 しばらく走り回っていたら、さっきまで気配を消していた虚の霊圧を感じた。 やっぱりインコの近くに現れた。 あれ?でも、インコとチャドくんのいる場所が違う? ううん、この場合、インコがチャドくんと虚から離れた場所にいるって言ったほうがいいのかもしれない。 それに、チャドくんの近くにはもう一人、知っている霊圧が近くにいる。 ―この感じは、朽木さんだ! おそらくチャドくんを追ってきたんだろう。 そうなると、きっとすぐにでも虚と交戦するはず。 近くに黒崎くんの霊圧を感じないことを不思議に思いながら、私は自分の走るスピードを上げた。 やっと朽木さんの元へたどり着いたとき、私はなんとも不思議な光景を目にした。 だって、ねぇ? 朽木さんはチャドくんにだっこされて、それで二人で空を見てるんだもの。 思わず、「二人とも、なにしてるの?」って聞いてしまったことを誰も攻められないと思う。 「う、うるさいぞ、!いいから黙って見ておれ!」 その後、朽木さんの指示で方角の調整らしきことをしたあとにチャドくんが彼女を宙に放り投げた。 あ、なんだ。 虚は上に浮いてたのね。 チャド君たちに気を取られすぎて気がつかなかったよ。 虚はまさかそんな方法で自分のところへ飛んでくるとは思ってなかったみたいで、かなりあわてた様子を見せた。 そう、思った。 でもやっぱり、一筋縄ではいかないのが虚退治。 まっすぐに虚に向かって飛び上がっていた朽木さんが、次の瞬間まっさかさまに地面に向かって落ちてきた。 「朽木さん!」 悲鳴に近い自分の声が辺りに木霊する。 彼女の体が地面に衝突すると思った瞬間、チャドくんがぎりぎりのところでダイビングしながら抱きとめた。 急いでチャドくんの元へ走りよる。 彼にしては珍しく驚いた顔をしていた。 そんな彼には見えないであろう、朽木さんの体にまとわりつく紫の物体たち。 背筋が凍った。 「朽木さん、大丈夫?」 「ど、どうした?」 「いや、すまぬ。不意をつかれた。くっそ、なんだこれは?ヒルか?」 『その通り。そいつは簡単にははずれねぇぜ。』 いつの間にか地面に降りてきていた虚がうれしそうに告げる。 確かに、一生懸命朽木さんがまとわり着いたヒルをはずそうとしていたけど、一向に外れる気配はしなかった。 うれしそうに笑う虚の気配が頬に嫌な汗をつたわせる。 『しかもそいつはオレのターゲットよ!』 虚が舌から高音を発した瞬間、朽木さんにまとわりついていたヒルが破裂した。 衝撃で彼女の身体が倒れる。 何も見えていないチャドくんは突然の出来事にただ目を白黒させるだけだった。 『驚いたか!?そのヒルは小型爆弾よ。 舌から出る音に反応して炸裂する。まーったく、油断しやがって。』 得意げに自慢する虚に嫌気が差す。 「なんてヤツ・・・」 思わず口からでた悪態。 それを察してか、チャドくんが立ち上がり、虚と向かい合う。 「チャドくん?」 『やる気か?デカイの。だが、テメェには・・・』 チャドくんがなにかに気づき、身体に力が入る。 視線を移せば、虚の隣には例のインコが入った籠が置かれていた。 「そうか、さっき逃げたのはこれをもってくる時間稼ぎか!」 呟くような朽木さんの声が、耳を掠める。 ふつふつとした怒りが胸の中で湧き上がってきた。 「ゴメン、オジチャン。ツカマッチャッタ・・・」 「柴田・・・」 うなだれて謝るインコの姿が胸を締め付ける。 その籠には、虚が操るヒルを吐き出す小さな生物が張り付いている。 チャドくんも空気で今の状況があまりよろしくないものであることを察したのだろう。 身動きが取れなくなったこちら側の様子をあざ笑うかのように、虚はまた癇に障る話し方で言葉を続けた。 『理解できたみたいだなぁ、デカイの? さぁて、アンタと遊ぶ時間だ、死神さんよ? 逃げ回れ!オレが楽しくアンタだけを狩れるようにな!』 狩・・・ この虚の口から出るとなんて嫌な言葉に聞こえるのだろう。 知らず知らず、左腕に力がこもった。 「ここを動くなよ、チャド。」 冷静な瞳を宿して、朽木さんが立ち上がる。 「ヤツは貴様が一歩でも動いたら、鳥籠を爆発させるつもりだ。」 「転入生、アンタは?」 「私の心配など不要だ。ヘマはせぬと、約束した。」 顔をしかめるチャドくん。 「朽木さん。」 「、チャドを頼むぞ。」 彼女は一方的にそう告げると、踵を返して走り出した。 虚の小さな分身たちが、耳障りな泣き声を上げながらその後を追う。 そして、楽しそうに笑いながら、虚もその後に続いた。 後には静寂が残る。 朽木さんが去っていった方向を見つめるチャドくんがなにを考えているのかはわからない。 戸惑い? 疑問? なんだかどの言葉もしっくりこない。 霊を感知できない彼にとって、今の状況はわからないことばかりだろう。 でも、それを今説明してあげられるような精神的な余裕は、私にはなかった。 今は、とにかく朽木さんの後を追いたい。 ちらりと鳥籠に目をやる。 虚はご丁寧に数匹の分身を残していた。 自分の遊びにおぼれることなく、ちゃんとそういうことに気を回す余裕があるのが憎らしく感じる。 左腕に力をこめ、私はブレスレットの紐を伸ばし、鳥籠にまとわり着いている生物をなぎ払った。 インコは、驚いたようにその様を見ている。 きっとこの子には霊が見えているのだろう。 「驚かせちゃってごめんね、インコさん。」 そう言葉を投げかけると、バサバサと羽を動かして応えてくれた。 「?」 「爆発するヤツ、取り払ったからもう動いて大丈夫よ。」 彼の顔を見ずに、私は続けた。 「朽木さんは私が追いかけるわ。チャドくんはここにいて。 インコさん、あなたはなにかあった時チャドくんを誘導してあげてくれる?」 「ウン。ワカッタ。」 「お願いね。」 いまだ戸惑っているチャドくんを置いて、私はそのまま走り出した。 今はとにかく、朽木さんのところへ行かなければ。 頭の中にあるのは、ただそれだけだった。 花梨を寝かせ、急いでルキアやチャドの元へと走り出す。 脳裏に横切るのは、さっき花梨が久しぶりに見せたあの泣き顔。 言いようのない苛立ちと純粋な使命感がオレの足を突き動かしていた。 さっきルキアと別れた場所まで来て、その居場所を確認する。 インコを探すよりも今はそれが確実だ。 「こっちか!」 別れた場所からそこまでは移動していないみたいだった。 その事実に安堵しつつ、オレはまた足を動かす。 待ってろよ、花梨! 胸にあるのはただ、妹を苦しめる原因を作ったあの虚を倒すことだけだった。 霊圧をたどって走っていくと、耳をつく音があたりに響いていた。 そして、直後に何かが爆発する音が届く。 きっとこの音はアイツが朽木さんを傷つけている音。 そんな考えが頭をよぎって、私はなかなか動かない自分の足に対する嫌悪感と焦りだけが心を支配していくのを感じた。 『いいねぇ、その血まみれの姿!かわいいよぉ?』 なんでこんなにイライラするのだろう、この虚の声は。 『たまんねぇなっ!』 虚は自分の分身を片手に、勢いをつけて朽木さんへめがけて投げようとする。 が、手を放す直前に何かが腕の動きを抑えて、狙いが外れた。 『なんだぁ!?』 驚いた虚は自分の左腕に目をやる。 そこには茶色の紐が幾重にも絡まっており、その動きを邪魔していた。 「?」 怪訝そうにこちらを見る朽木さん。 それはそうだろう。 だって虚の動きを抑えている茶色の紐はまっすぐと私の左腕にあるブレスレットにつながっているのだから。 「乱入してごめんなさいね、虚さん。 でも、女の子一人だけ狙うだなんてあんまりなんじゃないかな?」 手元に紐をまた引き戻せば、虚は目を白黒させてこちらを見てくる。 「私も、混ぜてくれないかしら?」 ニコリと笑って言ってのければ、虚はそれはそれは楽しそうに笑い始めた。 『面白れぇじゃねぇか。』 「お手柔らかに。」 左腕に集中する。 今の状態に前よりは慣れてきているはずだ。 黒崎くんが来るまでの間、この虚を抑えつけられるくらいなら今の私にだってきっとできる。 「後ろだ、!」 朽木さんの鋭い声が耳に入った。 でも、大丈夫。 ちゃんと気づいているよ。 にたりと笑う虚の顔をしっかりと確認しながら、私は連珠で後ろから飛び出してきた小さな生物たちを薙ぎ払った。 『面白い力もってんじゃねぇか、ガキ!』 「それはどうも。」 『それにお前もうまそうな匂いがプンプンしてるなぁ? 今日は面白いもんにいっぱい出会えて嬉しいぜぇ! たーっぷりとかわいがってやるよぉ!』 今度は虚の肩から現れた分身が私に向かってヒルを飛ばしてくる。 さすがにそれを防ぐ術はないので、避けた。 触りたくはないし。 「蒼火墜!」 攻撃を避けた直後、虚を背後から朽木さんが攻撃した。 いいタイミングの攻撃に心の中で彼女に拍手を送る。 体制を立て直し、虚の意識が朽木さんへ向いている隙にブレスレットを伸ばし、虚の仮面を狙う。 私の攻撃は残念ながら気づかれてしまい、翡翠色の珠が二つついている連珠は弾き返された。 でも、弾かれたもの以外に伸ばしていた珠が一つしかついていない方、連は難なくその横を通り抜け 朽木さんを背後から狙っていた分身を上手く払いのけることができた。 こんな状態じゃなかったら、きっとあの分身も切り裂くことができたんだろうけど。 今はそれを言っても仕方がない。 『いいねぇ、気が強い女が二人で必死こいて歯向かってくるのを見るのは嫌いじゃないぜぇ?』 余裕の笑みを浮かべている虚には、今の二人の攻撃は全く効いていなかったんだろう。 次の攻撃に備えるために、私は連珠を手元に引き戻す。 『でもよう、お嬢ちゃんたち。目の前のことに気を取られすぎてるぜぇ?』 「なに?」 ニタリと笑った後に、虚は自分の舌を震わせた。 瞬間、足元から複数の爆発音が聞こえる。 戦っていく中で、いつの間にか私たちの足元には沢山の爆弾ヒルがばらまかれていたらしい。 衝撃と爆風から守るために腕で顔を庇う。 そのせいで反応が遅れてしまった。 敵の虚が勢いよく私に近づき、腕で払った。 「しまった!」と思った時にはすでに遅く、コンクリートの壁に背中を打ち付けてしまう。 「!」 『余所見してる場合じゃねぇぜ?死神さんよぉ!?』 煙にまぎれて現れた分身が朽木さんへとヒルを飛ばす。 そして、また耳につく高音と爆発音が響いた。 「朽木さん!」 頭がクラクラしたが、そんなことは構わずどうにか立ち上がる。 霞もなくなり、ようやくクリアになった視界に映ったのは血を流して息を荒げている朽木さんだった。 下品な虚の笑い声が耳についたけど、そんなものよりも 今は無力な自分がただただ苛立たしかった。 |
<コメンツ> いろいろと都合により脚色しつつ、ようやっと絡めることができました原作シーン。 そして、改めて自覚します。 バトルシーンってなんて難しいんだ!! 少しでも皆様に状況が伝わっていたらいいなと願うばかりです・・・ ご感想などがありましたら、お気軽にメールまたはBBSまでお願いします! |
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