「悪い、!」
「みぎゃーー!」

勢いよく扉を開けた瞬間、ドサーッと何かが崩れた音と悲鳴が聞こえて、龍也は思わず動きを止めた。

「あ?」

そしてすぐに甲高い叫びが耳を貫いた。

「イヤーー!!ちゃん!!」
「なんだ!?」
「んもう!リューヤが突然入って来るから!」

見れば紙の山の前で林檎がしゃがんでおり、必死にそこから覗く手を引っ張っていた。
腕についているブレスレットで、それがだと解った龍也は慌ててその両手を引っ張り上げた。
ぶらーんと両手を持たれた状態のは安堵の息をもらした。

「ふえー・・・龍也さん、ありがとー・・・」
「おう・・・っつーか、お前どういう仕事の仕方してんだよ。」
「んと〜。着た物手当たり次第?締切順?」
「・・・そうか。」
「あと、寮の管理人さんに提出するシャイニーさんの被害届。これ大至急。」
「・・・すまん。」

床にを下ろしてやりながら龍也は詫びた。
まさかあの社長がこのクソ忙しい時期にこの後輩にまで迷惑をかけているとは思っていなかった。

「あり?そういえば龍也さん、さっきまで電話してなかった?」
「おう、そのことでちょっとな。
 んで?林檎はなにやってんだ?」
「アタシはちゃんのお手伝いよ。次のお仕事まで時間あるから。」
「林檎ちゃん、本当ありがとう。助かります。」
「いーのよ。困った時はお互い様ですもの。」
「すまんな。スタッフ連中も今は手持ちの仕事で一杯一杯で、他に手が回らなくってな。」
「いえいえ。幸い曲関係のお仕事で締切が近いヤツはほぼ終わってるから。」

その代り今度なんかおごってくださいね、と続ける笑顔に、龍也は頭に手を乗せてやることで応えた。

「ところでリューヤ、用ってなぁに?」
「おお、そうだ。、急で悪いんだが手伝ってほしい仕事がある。」
「わーお。急ぎ?超特急?今すぐ?」
「今すぐ、だな。オレから依頼した今抱えている分は後回しにして良い。林檎、お前も手伝え。」
「えー。」
「しょうがねぇだろ。社長が絡んでんだから。」

それなら仕方がないと林檎は諦めのため息を漏らした。
龍也が取り出したのはシャイニング早乙女の思いつき企画の資料。
所属、新人、預かりアイドル入り混じっての音楽をからめた大ゲーム大会をシャイニングスペースTVの特番として放送する、というものだった。

「その企画書のたたきがコレだ。」
「うーわぁ。相変わらずよくできてる〜!さっすがシャイニーさん!」

思わず感嘆の声を漏らしてしまうのもそのはずで、中身は見ている視聴者の心を鷲掴みにする仕掛けがあふれていた。

「まーな。」
「こういうエンターテイメント、シャイニーは得意ですものね。」
「い〜な〜!私もこの番組でたくなっちゃう!」
「が、このまま企画を実行したらうちが破産しちまう。で、だ。」
「え〜、やだー!」
「まだ何も言ってないだろうが。」

龍也はコツンとの頭を叩いた。
だが、この手の話が出てくるのはいつものこと。
も次に何を言われるのかは十分にわかっている。

「だってさ〜、クオリティを下げずにコストだけ下げてって、それが一番難しいってのに・・・」
「シャイニーの企画っていっつもダイナミックだものね。」
「大体なんでこんな企画が急に出てくるのさ。」

企画内容からすれば、明らかに3番組分くらいをぶち抜いて使う大掛かりなものだ。
昨日今日で浮上させるにはいささか無理がありすぎる内容である。

龍也はそこで申し訳なさそうに頭を掻いた。

「実は、元々この枠に入っていた企画の会議に社長が乱入してな。
 『今回はコレよコレなのよ』とかなんとか言って自分の企画を押し付けて乗っ取っちまったらしい。」
「うーわー。もとの企画は?」
「別の日に持ち越した。」

あらまあ、と続いた林檎の声がやけに響いて聞こえた気がした。

きっとその企画の担当者は今頃燃え上がる勢いで企画の修正をしているだろう。
「打倒シャイニング早乙女!」とか「今に見てろよあのクソオヤジ」とか叫びながら。
そういう事務所だ、ここは。

「おーし、了解!ボツにされた担当者に負けてらんない!」
「イヤ、まだボツになったわけじゃ・・・」
「そーよ、ちゃん、その意気よ!」
「おい、聞けよ。」
「んじゃ、私この部分やるね!」
「っておい、なに表紙だけ持って行こうとしてるんだ。」

龍也はささっと上から数枚紙を持って逃げようとするの頭をガシっと掴んで引き戻した

「表紙のデコレーションを少々。」
「んなもんいらんだろうが。お前がやるのはコレだ。」

そう言ってバサーッと渡された束を見てはまた悲鳴をあげた。

「いやー!これメンドクサイやつ〜〜!!」
「なに言ってんだ、お前こういうの得意だろうが。」

ほれ、さっさと始めろ、と言いつつ、ぽいっとをデスクへ投げた。

「うー。絶対今度高いもの奢ってもらうからなー・・・」
「ほーらちゃん!すねないの!」

ポンポンと頭を撫でられ、はすがるような目で林檎を見上げた。

ちゃんはやればできるんだから。それにほら、この部分なんてちゃんのアイディアでもーっと素敵な企画にできると思うわよ?」
「ほんとに?」
「おう。予算内に収まっていいできだったら何やってもいいぞー。」
「マジですか、龍也さん!?」
「むしろやっちまえ。」
「わーお。」

目を輝かせるを見て二人はニヤリと笑った。

「ほら、ちゃん、頑張って!」
「キビキビ働けー。」
「後でご褒美が待ってるわよ。」
「なんか、ニンジンと飴とムチと全部使われて転がされてる気がする・・・」

「そうだ。」「気のせいよ。」

同時に返された二つの返事がなんとも心に引っ掛かったが、はそれを振り払うように机に向かった。

「もういい!とにかく終わらせればいいんだから!!」
「そうよ、ちゃん!あなたならできるわ!」
「目標、今日の4時までだからな〜。気合入れてやれー!」
「うっそーん!龍也さんの鬼ーーーー!!」
「文句は俺じゃなく社長に言え。」
「んも〜〜〜〜!!見てろよ、あのクソオヤジ!!!」
















の締切との格闘は、まだまだ続く。






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