「うわ、なんかすごいね・・・」 「なんです、この部屋の状態は。」 カチャリと部屋に踏み入れた二人はそれぞれ表情をゆがめた。 いつもならば整理整頓されている部屋は紙だらけで、もはや足の踏み場もない。 そして、その部屋の主である少女は慌ただしくその中で走り回っていた。 「あ、おとやん、トッキー、いらっしゃーい。」 比較的に紙の波が押し寄せていないソファーに座っていた嶺二がにこやかに二人に手を振った。 「れいちゃん、ちゃんどうしたの?」 「いろーんなお仕事からのラブコールに応えようとして悲鳴を上げてるの。 って、ちょっとちょっとちゃん!いくらなんでも積みすぎでしょ!」 「仕方がなかろう!棚へ往復する回数減らすにはこれしかないんだから!」 ビシッっと嶺二をペンで指しながらドヤ顔をする彼女の周りには、絶妙なバランスでそびえたっている紙の塔がいつの間にか作り上げられていた。 「あー・・・ちゃん完全にスイッチ入ってるね〜・・・」 「んもう!雪崩が起きてもれいちゃん知らないんだからね!」 「その時は捜索よろしく!」 CMバリの笑顔で爽やかにトキヤの方を振り返って親指を立てる。 が、すぐに「お断りします」とぶった切られた。 「トキヤのイジワルー!ほら、ちゃんと事前に捜索願渡しておくから、ね?」 「「ね?」ではありません。大体なぜ雪崩に会うこと前提で仕事しているんですか!」 「それに普通は先に捜索願渡さないよ、ちゃん。」 「そうか、なるほど!じゃあ音くんに預けとくから、後でトキヤに渡してね。」 「ええ!?」 「音也に渡してもダメです。」 「うわーん、れいちゃん!トキヤがいじめるよ〜!」 「よーしよし!ちゃん、お兄さんに任せなさい! トッキ―、ダメでしょ!めっ!」 「なんなんですか、あなたたちは・・・」 はあ、と吐き出されたトキヤのため息は何だか重みがあった。 こっちは仕事がこの後控えているというのに、と無駄な体力を使いたくない感情がヒシヒシと伝わってくる。 その横から音也がすっとの手を握った。 「大丈夫だよ、ちゃん!ちゃんとオレたちで助けてあげるから!」 「ありがとう、音くん!頼りにしてるよ!」 「うんうん!任せといて!」 「ちゃーん、僕もいるから!お兄さんを忘れないで!」 「もちろんだよ、れいちゃん!」 「寸劇はもういいですから。 それよりさん、編曲のデータをさっさとください。」 今朝出来上がったと言っていましたよね、と続ければ、が不満そうに口をとがらせた。 「えー!もうちょっと遊びたかったのにぃ〜!」 「そんな暇、今のあなたにはないでしょう!」 「んもう、わかってにゃいにゃ、トキヤ!気分転換もお仕事の効率を上げるためには大切なんだよぉ?」 人差し指を頬に当ててポーズをとるに、トキヤの視線はまだ冷たい。 「・・・・・・。」 「・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・。ぅっ・・・・ うわーん、もう無理!音く〜ん!トキヤがこわいよ〜!!」 「ああ。大丈夫、ちゃん。よしよし。」 「あなたがふざけてばかりいるからでしょう。 大体なんです、さっきのは。HAYATOの真似のつもりですか?」 「あ、解ってくれたんだ?」 「下手すぎて解りにくいです。」 「うわーん、音くーん!」 「あはは。ごめん、ちゃん。オレも解んなかった。」 「追い討ち!?」 ギャーギャー騒いでいる中、今度はパンパンと手を叩きながら嶺二が間に入ってきた。 「ハイハーイ。ちゃん、そろそろお仕事再開しようね。」 「う〜・・・はぁ〜い・・・。」 「ん、いい子いい子。後でご褒美にショコラケーキ持ってきてあげる。」 「本当!?わーい、れいちゃんありがとう!んじゃ音くん、私頑張って来るよ!」 「うん、がんばって! そうだ。はい、ちゃんお土産!」 ごそごそとポケットを漁りだした音也は、そこから小さな袋を取り出した。 ついているプレゼント用のリボンはの好きな色だ。 嬉しそうに袋を受け取ったは「なんだろ〜?」とウキウキしながら袋を開けた。 「火の魂ボーイのクリップセットだよ。」 「うわ、マジで!ありがとう、音くん!わーい!早速使うね!」 ピョンピョンと跳ねながらは自分のデスクへ向かっていった。 「ちょっと、さん!」 「はーい、トッキー!君がほしいのはコレでしょ?」 ぽん、と嶺二から渡されたのは一ノ瀬画伯のファイルケース。 開けてみれば「トキヤ用」と書かれたCDと書類が入っていた。 「ちゃん、いつもこうやってみんなの関連グッズに渡すものを保管してんの。おとやんはこっちね。」 「うわ!おんぷくんフォルダー!使ってくれてるんだ!なんか嬉しいね。」 「で、寿さんはなぜこれを?」 「ちゃんに頼まれてたんだよ。『二人が着たら愛情込めて渡してね』って。」 「だったら私たちが来た時にすぐに渡してください。」 少し苛立った口調で睨んでくるトキヤを見て嶺二は口を尖らせた。 「えー?だってトッキ―もおとやんもすぐに要件を言わなかったじゃなぁい。 それに・・・ちゃんにはいい気分転換になるだろうと思ったし。」 見ればは鬼気迫る勢いで紙を捌いていた。 はい、はい、はい、とリズミカルに聞こえる掛け声はやはり音楽に携わっている人間なだけある。 「この時期はお仕事たっくさん入ってくる上に事務所の手伝いもしてるし。 さらに今回のコラボ企画まであるでしょ。 ここ最近ずーっとあんな感じだったからさ。」 嶺二の視線の先にいるはバタバタと今度は手にした書類を「心のダム」フォルダに入れていた。 「ぃぇぃぃぇぃ!次!次!GOGOGO〜〜!」と妙な調子の歌まで口ずさんでいる。 「うん・・・すごいね。・・・なにかオレ達にも手伝えるかな?」 「ホントに?ちゃんすっごく喜ぶよ! んじゃ、この荷物、代わりに届けてあげてちょ?仕事に行く道で通りがかる分だけでいいからさ。」 嶺二が指したのは、自分達宛の荷物があった場所とは別の山。 そちらも誰宛かすぐ連想できるようなシャイニング事務所関連グッズの数々が山積みにされていた。 「仕方がありませんね」と言いながらすぐにいくつかの荷物を手にしたのはトキヤで、 その様子を嬉しそうに見ながら音也も荷物を両手に抱えて部屋を後にした。 後輩二人が部屋を出た後、残った嶺二はまだバタバタと仕事をしているを見る。 そして、苦笑いを浮かべた後に、「さーって、僕もお仕事再開しますか。」とソファに腰かけた。 テーブルの上にはが書いた楽譜と嶺二による書きかけの歌詞。 そして、無理やりから奪った事務所の書類がいくつか。 さっき少し気分転換ができたし、もうしばらくは仕事をさせておいても大丈夫だろう。 今の手元にあるものが終わったら、ケーキと紅茶を用意して、またから少し仕事を奪おう。 そう決めてから、嶺二は腕まくりをして、筆記用具を手にした。 の締切との格闘は、まだまだ続く。 |
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