「結構しつこい性格してるんですね。」 「丈らしいよ。」 それぞれが諦めて浜辺で座り込んでいるそばで、丈はいまだにいろんな電話番号にかけている。 「どこにかけても聞こえてくるのは、デタラメな情報ばかりか。」 「もう諦めて移動しようぜ。」 「ちょっと待て。こっちからかけられなくっても、向こうからかかってくる可能性があるんじゃないか?さっきみたいに。」 「ここでじっとしてても時間の無駄だよ。」 ヤマトの提案を聞いても太一はなおも先に進もうと促す。 ヤマトは語尾を強めた。 この友人は、周りの様子に気づいていないのだ。 「しばらく様子を見たらどうだと言ってるんだ。みんな疲れてるんだぞ!」 そこで初めて太一は周りの子供たちの座り込んでいる様子に目を向けた。 みんな疲れ切って足を抱え、ぐったりとしている。 近くに座っていた光子郎も眉を下げて太一のことを見上げていた。 「おなかも減ってきましたね。」 「そうだな。お昼もまだだったもんな。」 そういえば自分も疲れているのだ。 このまま進んでもそれも意味がない。 そう理解した太一はすぐにみんなに声をかけた。 「よし、休憩だ、休憩!」 空は安堵の息を漏らした。 正直な話、あのまま先へ進むには体力がもうなかった。 「誰か食べるもの持ってる?私が持っているのはこの・・・あら?」 ウエストポーチに手を伸ばした空が不意に動きを止めた。 腰に覚えのないものがついていたのだ。 手に取ってそれを見てみる。 「これってあの時空から降ってきた・・・」 「あ、それオレも持ったままだ。」 太一も自身の腰についている小さな機械を持ち上げる。 手のひらに収まる大きさの、ポケベルのような白い機械。 それを持っているのは空と太一だけではなかった。 「私のバッグにもついてる!」 「僕も持ってるよ。」 ミミやタケルにつられても確認した。 近くにいたヤマトも同じく腰あたりを見る。 「私も、ポーチにくっついてる・・・」 「みんな持ったままだったのか。」 「どうやらこれはなにか・・・」 光子郎が何か考えを口にのせようとしたところで、それを遮るようにおなかの音が鳴った。 そういえば、腹が減っていた。 「ところで、誰か食べ物、って話でしたよね。」 「そうだったね。」 同じく苦笑を浮かべたが同意しつつ周りを見渡した。 そこで子供たちは自分たちの荷物を確認し始める。 空は救急セット、そして針と糸をポシェットから取り出した。 光子郎の持ち物は、ノートパソコン、デジカメ、携帯。 「でも、此処に来てからどれも使えなくなっているんです。まだバッテリー残ってたはずなのに。」 困惑気味に彼は付け足した。 それにしても、普通はキャンプに持ってくる内容の荷物ではない。 子供たちは小さく苦笑しながら続けて互いの荷物を見せ合った。 太一は単眼鏡。 は小さなスケッチブックとキャラメル。 ヤマトはとくに持ち物はなかったが、その傍にいたタケルはカバンの中から大量のお菓子を取り出した。 少しは飢えを凌げるということだ。 ミミがうれしそうにタケルのカバンを覗き込む。 「ああ、お菓子!おいしそうね! あなた、うちの子供会の子じゃなかったわよね?」 「うん。夏休みだからお兄ちゃんのところに遊びに来たんだ!ね?お兄ちゃん!」 「あ、ああ。」 「ヤマトが「お兄ちゃん」だってさ。」 「従兄弟ですかね?」 首をかしげる太一と光子郎を見てから空はミミに声をかけた。 「ミミちゃんは何持ってるの?そのバッグ大きいけど。」 「これ?これはね・・・」 ミミはごそごそと自分のカバンの中身を出し始めた。 子供たちはそれらを見て驚く。 コンパスから始まり、固形燃料、釣り糸セットなど、およそこの状況に必要となってくるだろう物がほぼその中に入っていた。 「けっこう本格的なサバイバル用品だよな。」 他の子供たちが感心しているなか、彼女はそれが自分の父の持ち物だと告げた。 せっかくだから、と内緒で今回のキャンプに持ってきたらしい。 太一は呆れた声を上げた。 「普通は持ってこないぞ、こんなの・・・」 「だが、これからは役に立つかもしれないな。」 「そうね、この先どうなるかわからないし・・・」 ヤマトの見解を聞いた空が、その表情を引き締めた。 「そっか、それもそうだな。 ところで、丈はまだ電話してるけど食い物なんか持ってきてな・・・」 太一の声が途切れ、は不思議そうに見上げた。 「どうしたの?」 「あれ・・・非常食だ!!」 「「ええ〜!?」」 子供たち全員が丈の方を見た。 たしかに、彼が肩からかけているカバンには大きな「非常食」の文字が記載されている。 「本当だ!」 「おい、丈!非常食持ってるじゃないか!」 「え?何で僕がそんなもの持たなきゃいけないんだよ?」 いまだ受話器を片手に振り返った丈は、その重要な事実に全く気付いていない様子だ。 「だって、そのバッグ・・・」 「バッグ?・・・あそうだ!これをミミ君に届けに行くところだったんだ!」 丈はすぐにズカズカとミミのもとによってきた。 「ミミ君!君は非常食当番だったろう? ちゃんと管理しておかなくっちゃ駄目じゃないか!」 「え〜、だって重たいし・・・」 「そういうわがままを!」 「まーまーまー!食べ物があるってわかっただけでもめっけものだ!」 小さな喧嘩に発展しそうになったところを太一が割って入る。 「昼飯にしようぜ!」 「賛成。」 キャンプで配られていた非常食一斑につき3日分。 丈とミミの所属していた班は6人いたそうなので、計54食。 これを8人で分けると、やく二日分の食糧となる。 「でも、デジモンたちの分もあるから実際にはその半分、一日分よ。」 確認をしている丈と光子郎の横で空が声を上げた。 丈は頭を悩ませ始めたが、そこでガブモンが申し出た。 「オレたちはいいよ、自分の食べる分は自分で探すから。」 今まで自分たちで食べ物を探して過ごしてきたので、非常食はいらないとのことだ。 「そうしてもらえると助かるよ。じゃこの非常食は人間の分ということで・・・」 嬉しそうに話す丈はしかし、その背後ですでに非常食を開けてアグモンに食べさせている太一に気が付いた。 「だからそれは人間用!」 「いいじゃないか、ケチだな!」 「ダメ!」 は苦笑を浮かべた。 そしてふと横を見ればじっと太一とアグモンを見ているポニモンがいる。 「ポニモン?」 「うんとね、おいしそうだなって・・・」 「じゃあ、一個食べてみる?」 「うん!」 「ちょっと君!」 抗議をする丈に向かっては笑いかけた。 「いいじゃないですか、どうせ開いちゃってるんだし。」 さくさくと太一の元へ向かうを見やって、丈はただため息を落とすしかなかった。 穏やかな空気は突然終わりを告げる。 何かに気が付いたピヨモンが海の方を振り返って立ち上がった。 「どうしたの?ピヨモン。」 「来る!」 ピヨモンの言った通り、小さな地鳴りが耳に入った。 そして、突然砂浜に水柱が上がった。 次々と電話ボックスをなぎ倒したそれを避けるため、子供たちはあわてて立ち上がる。 そして、砂の中から巨大な巻貝を背負ったデジモンが姿を現した。 「シェルモンや!この辺はアイツの縄張りやったんか!」 貝殻の中からピンクの体を出してシェルモンは吠えた。 縄張りを荒らされて怒っているらしい。 「みんな、こっちへ!」 急いで崖を登ろうとした丈だったが、シェルモンの出した水でまた砂浜に落とされてしまう。 ほかに逃げ道がない。 「行くぞ、みんな!」 小さなデジモンたちは全員で大きなシェルモンへ向かって走り出した。 そして次々と攻撃をしかける。 いや、仕掛けようとした。 だがアグモンとポニモン以外のデジモンたちの技が全く出なかったのだ。 シェルモンは次々と水を頭から吐き出し味方のデジモンたちを吹き飛ばしていく。 全員が砂の上でうずくまる中、アグモンだけが立ち上がった。 「ベビー・フレイム!」 「いいぞ、アグモン!」 小さな炎がシェルモンに命中した。 その光景を光子郎が不思議そうに眺める。 「なぜアグモンだけが?」 「すんまへん、腹減って・・・」 「え?」 光子郎は傍らのテントモンを振り返った。 ほかのデジモンたちもぐったりとしている。 「そうか!アグモンはさっきご飯食べたから!」 「なるほど・・・」 「じゃあ、ほかのデジモンに戦う力はないっていうのか?」 子供たちは焦った。 「ポニモン・・・」 「大丈夫・・・!」 もうずくまるポニモンに声をかける。 さっき、一枚だけ太一に乾パンをもらった。 そのおかげでほかのデジモンたちよりは体に力が入るようだが、全然足りないらしい。 こんなことならもっと食べさせてあげればよかった、とは唇をかんだ。 「アグモン!俺たちだけでなんとかするぞ!」 「わかったタイチ!」 シェルモンに向かって太一とアグモンが走り出した。 「ポニモン、あとちょっとだけ頑張れる?」 「うん!」 囮として駆け回っている太一に習ってとポニモンも走り出した。 シェルモンの意識がこちらに向くよう声を上げて走り回ると太一。 その隙にアグモンとポニモンはそれぞれ技を繰り出した。 しかし、やはりポニモンの技の威力はアグモンに比べて格段に低いことはすぐに分かった。 「ポニモン、がんばって!」 「うん!」 だが、すぐにシェルモンの攻撃でポニモンは吹き飛ばされてしまった。 「ポニモン!」 駆け寄ったに対しても同様に水が襲い掛かる。 「!ちくしょう。」 「どうだ!この!くそ!」 必死で手にした鉄棒をシェルモンに当てる。 だが、あまりにも必死すぎて太一は気づいていなかった。 シェルモンの頭に生えているイソギンチャクのような触角が彼に迫っていたことに。 「う、うわ!」 「タ、タイチー!」 気づいた時には、太一の体はすでに宙に持ち上げられ、触角にしっかりと絡め取られていた。 あわてて太一の名前を呼んだアグモンも、気を取られてしまったせいでのっそりと持ち上げられたシェルモンの前足に踏みつけられた。 「太一!アグモン!」 駆け寄ろうと立ち上がっただったが、動いたせいでシェルモンの意識がこちらへ向いてしまった。 その頭から吐き出された水でまたも崖の方へ押し戻されてしまう。 しかも、今度は周りにいた子供たちへもその攻撃はむけられた。 はむせ返りながら体を起こそうと試みるが、すぐにまたシェルモンの攻撃が襲い掛かる。 その様子を太一はもがきながら見ていた。 「ちくしょう!このままじゃみんなが!なんとかならないのか!?」 歯がゆさで太一はさらに体に力を入れる。 だが、まるでうるさいとでもいうかのように引き締まった締め付けにただただ悲鳴を上げるしかなかった。 「タイチ!」 「アグモーン!!」 必死に互いを呼ぶ。 シェルモンに踏みつけられたままのアグモンは、また太一の名前を叫んだ。 助けたい。 願いはただそれだけだ。 そして、その願いに呼応するよう、太一の腰についたあの不思議な機械が光を放った。 「アグモン進化〜!グレイモン」 クワガーモンと対峙した時と同じように、アグモンは光を放って姿を変えた。 その姿は、まるでティラノサウルスのような大型恐竜。 そんな大きな恐竜が突然足元から現れたから、シェルモンは体制を崩してひっくりかえってしまった。 「うわっ!」 その衝撃でツタが緩み、太一も砂の上に投げ出される。 急いで起き上がり、シェルモンの方へ目線をやった太一は大きくなったアグモンを見て目を見開いた。 二本足で立つその姿はあの大きなシェルモンよりも背が高い。 「また「進化」?グレイモンだって?」 あまりにもの変化に驚くことしかできない。 でも、あれは確かに自分を助けようとしてくれたアグモンだ。 その証拠に、グレイモンはシェルモンに立ち向かい戦闘を始める。 「がんばれ!グレイモン!」 太一の声に応えるように、グレイモンはシェルモンの体を宙に投げ飛ばした。 そして、口から火をだして、ぶつける。 「メガ・フレイム!」 爆発した炎は、勢いよくシェルモンを海の先へと吹き飛ばした。 「すごい・・・」 小さなつぶやきが誰かの口から洩れたと同時に、グレイモンは再び光に包まれた。 みるみるその姿は小さくなり、もとのアグモンに戻って行った。 太一はあわててその傍に駆け寄る。 アグモンは、力なく地面にへばりついていた。 「大丈夫か、アグモン?」 「タイチ〜・・・」 「ん?」 「・・・はらへった・・・」 「さあ、どんどん食べてね!」 デジモンたちに非常食を食べてもらいながら、子供たちは次の行動を話し合う。 その様子をまったく気にすることなくどんどんと食べ進めるデジモンたち。 その姿を見て、は申し訳なさでいっぱいになった。 「ごめんね、ポニモン。」 「うもご?」 がつがつと器用に前足を使って食べていたポニモンは不思議そうにを見上げた。 「さっき、もっと食べさせてあげればよかった・・・体痛くない?」 「うん!いたくないよ!それよりウミこれおいしいね!」 がつがつとポニモンはまた食べ始める。 本当におなかがすいていたのだ。 周りのデジモンたちもそう。 それでも彼らはあの時自分たちに非常食を全部食べるように言ってくれていた。 「ありがとう・・・」 ポニモンの頭をなでて、は呟く。 不思議そうにこちらを見上げながらも、ポニモンは更に食べ進めていた。 「シェルモンも完全に倒したわけではありません。」 不意に入ってきた光子郎の声には顔を上げた。 「また襲ってくる前に、ここから離れた方がいいと思います。」 「だったら、やっぱりあの森に戻ろうよ!あそこで助けを待とう!」 丈は最初と変わらない主張をいう。 確かに、はぐれた場合は最初にいた場所で助けを待つことは普通は得策だ。 だが、今回は違う。 「前にも言ったけど、あたしたちは崖から落ちて川を下ったのよ?そう簡単には戻れないわ!」 「クワガーモンは嫌!」 空とミミ主張は残りの子供たちの気持ちをほぼ代弁していた。 そこで光子郎が提案をする。 「ここに電話があったということは、誰か設置した人間がいるはずです。 その人間を探しましょう!」 今一番可能性があるのはそれだけだ。 子供たちは全員一致で立ち上がる。 そうしてまた、8人の子供たちは前へと進みだした。 嬉しそうについて来る8匹のデジモンたちと共に。 |
<アトガキ> さくさくと進めちゃいました。 次もサクサク進みそうw 文才ほしいなぁ・・・(ぼそ) |