「黒崎君」
たまたま行った屋上で、たまたま居たヤツに、
オレ、黒埼一護15歳はあんなことを言われるとは思ってもいなかった。















その日、オレは啓吾のなぜかいつもよりウザイからみから避難して一人で屋上にやってきていた。

「だぁー・・・親父といい啓吾といい、何で俺の周りはウルセーヤツばっかりなんだ・・・」

ゴロンと仰向けに寝っ転がり、デッカイ独り言を口にする。
すると、どこからかくすくすと笑い声が聞こえてきた。
誰も居ないとばかり思っていた俺は、ちょっと驚いてついさっき自分が入ってきた扉のほうへと目を向けた。
すると、扉の左にある角から一人のクラスメイトが姿をひょっこりと現した。

。」

ガバリと上体を起こせばはますます笑みを深くした。

「ワリィ、居たのか。」
「黒崎くん、浅野くんから逃げてきたの?」
「まぁな。」

アイツ、うるせーからなと続ければさっきと同じ笑い声が響いた。

はなにしてたんだ?」
「私は風にあたりに・・・」

ちょうどそのときふぉあっとの髪が少し風と戯れるように舞い上がった。
コイツはいつもそんな「タイミング」みたいなものがあるような気がする。

「そうか。」

オレはもう一度その場に寝転がった。
真っ青な空に思わず眼を細めながら、そろそろ午後の予鈴がなるんじゃねぇかと思ったとき、それは起こった。

「黒崎くん」
「んあ?なんだ?」



「私さ、黒崎くんのこと好きなんだ。」


















驚いた。
いや、「驚いた」なんて言葉では済ませられない。
なんっつーんだ?
仰天?一驚?
棚から・・・あ、いやチゲー。
藪から・・・いや、これも違う。
とにかく、そんな感じだ。
とにかく驚いたんだ。





自慢じゃねーがオレはこの15年間、「告白」なんてモンしたこともされたこともなかった。
理由はまあ、この見てくれと、噂と、その他もろもろ。
そんなオレにが告白してくるだなんて、正直ありえねー話だった。





― 

俺が覚えている数少ないクラスメイトのうちの一人で、中学の頃からよくたつきたちと一緒に居るヤツ。
たまにあーして屋上に行ったときに一言二言言葉を交わすぐらいでそれ以上の接点はない。
まあ、たつき以外で唯一オレのことを怖がったりしない女子だから、珍しいやつだと思うくらいで、オレの中のの認識はその程度だった。
だから、どうしてもの気持ちを理解することができなかったんだ。
悪く思いながらも俺の答えは最初から決まっていた。
返事の後のの落ち着きようにも、また驚かされたんだけどな。
他に誰も屋上に居なかったことにも俺はひそかに感謝していた。
啓吾やたつきがいたらまたゴチャゴチャとうるさくされるだろうし、
ルキアなんかが居た日にはなにを言われるかわかったモンじゃねぇ。
オレはただ、午後からどんな顔をして教室にいればいいのか心配すればいいだけだった。
とはいっても、生きた心地はまったくもってしなかったんだけどな・・・













フラれるのはわかっていた。
私はそれを承知であの時告白したんだ。
だって、私の知っている黒崎一護という人物は、好きでもない人と付き合えるような人ではないから。


― 黒崎一護

オレンジ色の明るい髪とちょっとキツイ目つきをしているたつきの幼馴染。
いつも騒いでいる浅野君たちと居るせいだけでなく、素行が悪いともっぱらの噂が立っているため、クラスの中でもかなり目立っている人物だ。
でも、彼がその噂どおりの人ではないことを、私は知っている。

ある日、たまたま本屋へよった帰り道。
めずらしく部活がないものだから私はちょっと寄り道をした。
その道のりで見かけたのが電柱の下に花を添えて手を合わせている黒崎くんだった。
それはまだ中学二年になったばかりの頃で、やっとたつきたちと話すようになったときだったから、
私も「黒崎一護」のことはちょっと噂を小耳に挟んだ程度にしか知らなかった。
もちろん、すべてを鵜呑みにしていたわけではなかったけど、あんなふうに不幸になった人のためにお花を添えられる人が噂どおりの人ではないことを半ば確信させた。
そう思いながら眺めていれば、電柱の後ろからひょっこりと小さな男の子が出てきた。
黒崎くんもそれに気がつき、二人は言葉を交わした。
その男の子の胸の真ん中には千切れた鎖がぶら下がっていた。

―『見える人』なんだ!

私は瞬時に心の中で叫んでいた。

『見える人』。
それも霊と会話ができるほどの・・・
確かに黒崎くんの気は他の人と比べて大きいとは思ってはいたけれど、
まさかあそこまで霊力があるとはまだ当時の私では感知することができなかった。

この出来事が、私に彼を意識させたのはいうまでもない。
その後も、私はたびたび黒崎くんが霊と一緒に居るところに遭遇した。
ごく最近では病院から出てきたお婆さんやスケボーに乗る不良たちに迷惑して助けを求めてきた女の子まで。

でも、ある日を境に黒崎くんの気配が変わった。
それは朽木ルキアという転校生が来た日から。
それからというもの、二人が一緒に居るところをよく見かけるようになった。


もしかしたら、朽木さんが現れたことに少しあせっていたのかもしれない。
普段の私なら、告白なんてもの、しなかっただろうから。
よくはわからないけど、二人からは似た力を感じる。
むしろ、黒崎くんから感じる違和感は朽木さんから感じる力とかなり似ている。
だから、私はあせってしまったんだ












あの時、私は久々に屋上で黒崎くんに会った。
最近の黒崎くんは大体朽木さんと一緒にいたし、私もあんまりあそこに行っていなかったから。
だから久しぶりにあそこで黒崎くんに会えて嬉しかった。
もちろん、黒崎くんの独り言が面白かったからあの時笑ったんだけどね。

あの時、私はきっともう彼と二人きりになるチャンスはないんじゃないかと思ったんだ。
だから、告白した。

「黒崎くん。」
「んあ?」

黒崎くんは仰向けになったまま、首だけを横に向けて私のことを見た。

「なんだ?」

風が少しだけ、私の背を押して、勇気付けてくれた気がした。

「私さ、黒崎くんのこと好きなんだ。」

案の定黒崎くんは驚いた顔でがばりと体を起こした。

「す・・・すすす、『好き』って・・・つまり、そーゆー・・・」
「うん。そうだよ。」

ニッコリと笑いながら、今まで見たことのなかった「黒崎一護が焦る様」を観察した。
とは言いつつも自分の心臓は正直バクバク言ってた。

黒崎くんはもうしばらくあわてた後、一度大きく深呼吸して、立ち上がった。
右手を自分の頭に添えて、ガシガシっとかいて。
そして、ゆっくりと私のほうに歩み寄ってきた。
眉間のしわは、やっぱりというか、いつもの3割り増し。

「その・・・なんつーんだ?」

彼は次の言葉を必死に考えているようだった。

「オレは、別にのこと嫌いじゃねーけど・・・けどワリィ。そういう風にお前のこと、見たことなくって・・・その・・・」
「そっか。」
「へ?」
「そんなに気を使ってくれなくっても大丈夫だよ。」

笑って私がそんなことを言うもんだから、黒崎くんはまた狐につままれたような顔をしていた。
その顔が、ますます私に笑顔をそそる。

「それじゃ、今まで通りにオトモダチでいてくれますか?」
「あ、ああ・・・」

戸惑いながらも、律儀に返事をしてくれて、差し出した私の手を握ってくれた彼に対してますます好感度を増したのは言うまでもない。
私はこれからしばらく見ることができるであろう、彼の挙動不審な行動と今までとは少し変わると思われるこれからの彼との関係を思って楽しみになった。
だけど、やっぱり胸の辺りにある重いものは無視することはできなかった。












モヤモヤしたときは体を動かすのに限る。
これは「あの人」の口癖だった。
それはいつしか私自身も実行するようになっていて・・・それは今まさに部活最中に行われていた。

パシュッ

気持ちのいい音がしてボールがリングの中に吸い込まれる。
私の気持ちも同じようにスカッとする。
と、同時に、チームメイトから苦情が来るわけだけど。

「もう、!ちょっとは手加減しなさいよ!」
「ごめんごめん!」

現在、我が女子バスケ部は紅白戦の最中。
もちろんチームプレーはしているんだけど、いつもより暴れているわけだから点差がすごい。

「ああ、もう!本当にちゃん、もったいないわ!こんなに上手いのに〜!」

こんな風にみんなでわいわいとする部活の時間はとても楽しく、居心地がいい。
それはほんの少しだけ、私の心を癒してくれた。













はあの出来事の後も普通に過ごしていた。
あんまりにも普通すぎて、まるであのことがただオレの夢だったかのようにさえ感じた。

「イーチゴォ〜!なぁ〜にやってんだよぉ!」

どうしてコイツはいつもこうなのか・・・
考え事をしていたら後ろから啓吾に突撃された。
とりあえず軽くあしらうか。

「なんでもねぇよ。」
「ん〜?やや?あそこに見えるは井上さん!さては一護、井の・・・」
「チゲーよ。」
「あれ?一護はさんを見てたんじゃないの?」

水色!?

「なっ、ちがっ・・・!」
「なにぃー!一護がさんのことをー!!」
「バッカ、ちげーよ!」

水色が余計なことを言ったせいで啓吾がますます暴走しだした。
オレはあわてて止めようとするが、なかなか止まりそうにない。
挙句の果てにはの名前を連呼し始めやがった。
こんなんじゃさすがにに気づかれちまう。

「なに、浅野くん?」

そして、オレの努力も虚しく、はとことことオレたちの元に来てしまった。
まあ、あんだけ騒げば当たり前か。

さぁん!それがさ、それがさ!一護のやつがさっ!」
「って、テメーまだ騒ぐ気かっ!」
「ぐっぐぉ!へ、ヘルプ、ミ〜〜〜!・・・・」

まだ騒ごうとしている啓吾に対して、ヘッドロックの締め付けを強くしてやる。

「く、黒崎くん・・・浅野くん死んじゃうよ?」
「大丈夫だよ、さん。啓吾はこれくらいじゃ死なないから。」
「なにおぅ!水色ーーー!」
「ひ〜〜〜〜〜!」

いつの間にか俺のヘッドロックから抜け出した啓吾は一目散で水色に突っかかりに行った。
それは、いつもの光景。

「浅野くーーん!金メダル先生がっ!」
「ぬぁに〜〜〜!?」

という感じで、オレの隣でが啓吾をからかってクスクス笑っているのも、本当に、


いつもの光景だった。




<コメンツ>
 しょっぱなからさんがふられてしまってごめんなさい!
 あ、ただ、こっから少しずつ一護と仲良くしていく予定なので!
 徐々に徐々に、近づけていきますよ〜!