毎週、とまではいかなくても、土曜日にと遊ぶ機会が増えた。 といっても、河原限定の話である。 学校では相変わらず挨拶以上の関わりあいをもたない二人だったが河原ではよく話す。 今では子供達が帰った後にこうして並んで話をするのもいつの間にか定着した。 「それでね、タロったら拗ねて鞄持って行っちゃったの。」 「あはは。タロそんなことしたのか?」 「クーン。」 ぐいーっと足元でくつろいでいたタロを持ち上げれば、少し情けない声が返ってきた。 「動物ってやっぱりかまってやらないと拗ねるんだね。」 「うん。」 「うちの猫も構ってほしいときにすり寄って来るよ。」 「そうなんだ。」 「この前なんていたずらしてきて、俺のレポート用紙を・・・」 そこで長太郎は一瞬動きを止めた。 不思議に思ったが声をかける前に、「あ!」と大きな声を出した。 「どうしたの?」 「歴史のレポートって火曜までだよね!?」 「そう・・・だね。」 「うわー!どうしよう!?」 なにもやってない!と頭を抱える長太郎を見ては苦笑した。 「あれ、結構まとめるの大変だよ。」 「うーわー・・・」 縮こまって唸る長太郎を、足の間からタロが見つめる。 いつもさわやかで大人っぽい印象をもつ長太郎とは大分かけ離れている。 はその様子を不思議な気分で見つめた。 「・・・よかったら、一緒にやる?」 ちょっとだけ戸惑いがちに出されたの声。 長太郎はこの申し出に飛び付いた。 日曜日にと会うのははじめてだ。 駅前の待ち合わせ場所へ向かう最中に長太郎はその事に気づいた。 「!」 「おはよう、鳳くん。」 駆け寄ってきた彼女を見て長太郎は微笑んだ。 今日はふんわりとしたスカートをはいて全体的に軟らかい印象の服に身を包んでいる。 河原ではお互いに動きやすい格好をしているだけになんだか新鮮な感じだ。 「ごめんね、待たせちゃって。」 「ううん。今日はお世話になります。」 「はい。えっと、こっちね。」 やって来たのは小さな図書館。 がよく使っている場所らしく、利用者はそう多くなさそうだ。 二人は適当な場所に荷物を置くとさっそく本棚へ向かった。 「えっと・・・」 「鳳くん。」 キョロキョロと本を見回す長太郎をはある棚の前で呼んだ。 ズラッと並んでいたのは今回のレポートに役立ちそうな本ばかり。 「私これとこれ使ってるから、鳳くんほかの使ってくれるかな。」 「うん。」 「こっち結構参考になったよ。あと、これは鳳くんのレポートに役立つと思う。」 「ありがとう。」 さっさっと手渡される本を受け取って、長太郎は席に戻った。 目を通し始めると、なるほど今回のレポートに役立つ内容の本ばかり。 最後に手渡されたものなどは長太郎が書きたい内容に近しい資料が載っている。 ここへ来る途中で自分のレポート内容を尋ねてきたのはこの為かと半ば感心して長太郎は作業を進めた。 ちらっと目線を前に移すと、もまた先ほどの本を片手に鉛筆を走らせていた。 へえ、こんな顔して勉強するんだ、とちょっと的外れなことを思いながら長太郎はまた自分のレポート用紙と向き合った。 確かにいつもは隣の席。 正面から見る機会がないのは当たり前。 でもそれが、妙に新鮮に感じた。 カリカリと進む時を鉛筆の音が示していく。 やがて、小さな音を立ててが手にしていた本を置いた。 「終わったの?」 「あともうちょっと。」 は小さく笑って席を立った。 彼女は随分自然に笑顔を見せてくれるようになった。 そう思いながら長太郎はの姿を眼で追う。 戻ってきた彼女の手にあったのは別の本。 ただ、そのタイトルは明らかに今回のレポートとは関係ない。 不思議そうな長太郎の視線を受けて、はまた少し笑った。 「いきぬき。」 「なるほど。」 ぱらぱらとページをめくり、は真ん中あたりで本を読み始める。 長太郎もまた自分の手元の資料を確認し始めた。 順調にレポートを進めていく。 きっと一人で取り組んでいたら、使用する参考資料を見つけるだけで今日一日が終わってしまっていただろう。 そんなことを考えながら鉛筆を走らせると、ふいに視界で動いたが気になった。 そろっと見上げれば、真剣な顔をしたがそこにいた。 肩にしっかりと力が入って、本を支える左手にはかなり力が入っている。 「・・・・・・。」 彼女の眼はじっくりと文字を追っている。 すっと右手が伸びて、ページをめくる手前で今まで忘れていた呼吸をすっと鼻から入れた。 そしてまた息をつめてページをめくる。 しばらくして、ふぅっとは息を吐いた。 がっちりと入っていた肩の力がすっと抜け、表情もやわらかいものに変わる。 そうやってまた数ページ進めて満足そうに本を横に置き、 課題用の本を手にしたところではようやく長太郎の視線に気づいた。 「今なに読んでたの?」 「えっとね・・・短編集。妖怪が出てくるサスペンスもの。」 ちょっと意外な内容だと、長太郎は笑顔をこぼした。 「今度読んでみようかな。」 「おもしろいよ。シリーズになってて、いろんな話があるの。」 「ってかなり感情移入して本読むタイプでしょう?」 「うん、よくわかったね。」 「なんとなくね。」 くすくすと笑いを漏らして長太郎は続ける。 「今度おすすめの本教えてよ。」 「うん。鳳くんも教えてね。」 ちょっとした口約束が出来て、少しうれしさが胸にあふれたとある日曜日の午後。 おまけ: 長太郎のレポートは順調にすすみ、あとはまとめるだけとなった。 切もいいところだしと図書館を出ることにした二人。 「、筆箱仕舞い忘れてるよ。」 「あ、本当だ。ありがとう。」 「いえいえ。そうだ、この後空いてる?お礼になんかおごるよ。」 「空いてるけど・・・べつにいいのに・・・」 「ほんの気持ちだからさ。」 「じゃあ、お言葉に甘えて。」 にっこりと笑い合いながら出口へ向かう二人。 調度受付の前の人には軽く会釈すると、中の女性が慌てて彼女を呼び止めた。 「ちゃん。」 「藤本さん、こんにちは。」 「あなたこの前カーディガン忘れて行ったでしょう?はい。」 「やだ、本当。ありがとうございます。」 「気を付けてね。」 「はい。」 少し照れた顔をした笑顔を見て長太郎の頬が少し緩んだことにはまだ気が付いていない。
<コメンツ> |
しっかりしているようで実はうっかり屋さんな彼女を書きたかったんです。 この二人はマイペースにまったりと関係を進めていくんだろうな〜。 二人のほんわかな雰囲気が伝わったら幸いです。 |