「おはよう、。」 「おはよう。」 いつものように繰り返されるやり取り。 以前よりから返ってくる表情が柔らかくなって、それを受け取る長太郎の気持ちも温かくなるようになった。 表面上は変わらない二人のやりとり。 その様子を見ていたクラスメイト達から言われた一言で長太郎は目を見開いた。 「最近さ、長太郎ってと仲良くなった?」 「うん、ちょっとね。」 前とそう変わらないやり取りしか学校ではしていないが、見る人が見ればわかるのだろうか。 「なんか雰囲気変わったよな。」 彼はそう続けたが、隣にいた別の友人が「そうか?変わんねーって!」と否定してきた。 「なんか、柔らかくなったような気がするんだけど。」 「んー?」 クラスメイトたちのやり取りを耳にして長太郎は少しくすぐったさを覚えた。 彼女の雰囲気が柔らかくなったのは、きっと自分に慣れてくれたから。 でも、なんとなくその事を黙っておきたくって、長太郎は友人たちのやり取りをただ眺めていた。 そんなことがあった次の土曜日。 「・・・。」 「?」 長太郎は不思議に思って声をかけた。 宍戸との練習を終えて振り替えるとコートの外でぼーっとこちらを見ているがいたのだ。 「?」 「・・・っあ!鳳くん!」 「どうしたの?」 「なんでもないよ!ごめんね。」 「そう?」 ならいいけど、と長太郎は一先ず納得することにした。 「なんだ、長太郎知り合いか?」 「はい。同じクラスなんです。」 「こんにちは、宍戸先輩。」 ぺこりと頭を下げたに軽く挨拶を返して宍戸は長太郎に向き直った。 「んじゃ、オレ先に行くな。」 「はい、お疲れ様でした。」 宍戸は軽く手を挙げてさっとその場を立ち去った。 「鳳くん、そのごめんね。」 「なにが?」 「邪魔しちゃったかなって・・・」 「もう終わるところだったから大丈夫だよ。」 は少しすまなさそうに笑い返してきた。 考えてみればいつもこの後河原で一緒に遊ぶのだ。 宍戸とはいつもこの付近で別れているのだろう。 「もしかしてタロ外に待たせてる?」 「うん。」 「じゃあちょっと待ってて。一緒に河原へ行こう。」 「うん!」 長太郎はさっと荷物を取り、更衣室へ走っていった。 「鳳くんのテニスしてるところ始めてみた。」 「そうなんだ。」 「すっごく迫力があってビックリしちゃった。」 河原へ向かう道、はにこにこと長太郎に笑いかけた。 「とくにサーブ。あんなに速く打てるなんてすごいね!」 「ありがとう。」 嬉しそうに話しかけてくるを微笑ましく感じて自然と長太郎の頬も緩む。 いつもより饒舌になっている彼女は本当に自分のテニスを見て感動してくれたのがわかる。 「私ね、サーブがちょっと苦手でなかなかスピードが出ないから余計にそう思っちゃった。」 「あれ?、テニスやってるの?」 「うん。」 「女テニじゃなかったよね?」 「うん、その・・・美術部。」 「あ、そんな感じ。」 は少し恥ずかしそうに笑った。 「じゃあ、テニスはどこで?」 「近所のスクールに通ってるの。」 「いつから?」 「初等部の頃から。」 長太郎は驚いた。 「なんで女テニに入らなかったの?」 「その、雰囲気がちょっと・・・」 「あー・・・」 いつも近くのコートできゃあきゃあと騒いでいる彼女たちの姿を思い出して長太郎は納得した。 確かにには馴染みにくい空気があそこには溢れている。 「じゃあ、来週一緒に打とうよ。」 「え!?」 「予定あるの?」 「ないけど・・・」 「じゃあ、決まり。」 「いや、あの、でも・・・」 はただあわあわと慌てている。 その様子を見て、長太郎は少し眉を下げた。 「オレと打つの嫌だ?」 「そんなことないよ!」 思いの外大きな声で否定され、長太郎は少し目を丸くした。 自身も驚いているらしく、顔を真っ赤にして口を押さえていた。 俯いてしまって表情がよく見えないのが少し残念に思えた。 「そっか。」 「あの、お邪魔じゃない?」 「なにが?」 「宍戸先輩と練習するんでしょ?」 「来週は宍戸さん用事があるんだ。」 そうなんだ、と呟くの表情はまだ晴れない。 長太郎は視線で問いかけた。 「あの、ね、私そんなに強くないよ?」 「がオレより強かったら、レギュラー落ちしちゃうなぁ。」 「あ、そうだね・・・」 「試合とか抜きで打ちたいんだ。付き合ってくれる?」 にこりと笑いかけた長太郎をはじっと見つめたあと、少しはにかんだ笑顔を返してくれた。 二人で過ごす約束ができたとある土曜日の話。
<コメンツ> |
ちょっとずつわかってくる彼女の素顔にドキドキしてるといいなw |