ホカホカと気持ちのいい日差しが部屋の中に差し込んできている。 こんな日はまさに散歩日和。 世の中の人々はおそらくこの休日に家族でピックニックへ行ったり、カップルでデートへいったりしているんだろう。 まあ、一部の女の子たちはそれどころではないんだろうけど。 それなのに、私たちはほかと違って部屋の中でまったりしている。 長太郎は床に座ってベッドを背もたれにしながら先月号の『月間プロテニス』を読んでいる。 ちらりと肩越しに覗き込めば有名なプロがサーブをしているところの連続写真が映し出されている。 もっとサーブの威力を上げるつもりなのか、私でも知っているそのプロはビッグサーバーとして名前をはせているプレイヤーだ。 じっと長太郎の様子を眺めていると視線に気がついたのか後ろを振り返ってきた。 「どうかしたの?」 「ううん。なにもないよ?」 だらしなく長太郎のベッドに寝そべったまま返事をする。 私を見つめてくる瞳がやさしく細められる。 なんとなく長太郎に触れたくなって、少しだけ腕を伸ばして、今なら背伸びせずとも届く彼の柔らかい髪をなでてみた。 「その雑誌はもう読み終わったの?」 長太郎が指差したのはいま枕元で広げられている女性向けの雑誌。 私が持ち込んだもので、開かれたページには今時の服装をした女の子が数人こちらに手を振っている。 「まだ。」 ちょっとだけけだるげにいうと、今度は困ったような顔をしてこっちを振り返る。 それまで読んでいたテニス雑誌を閉じて傍らに置くと、長太郎はベッドの上に手を置いた。 ギシッっとベッドが鳴いたと思ったら、同時に少し体が沈んだ感覚がする。 体制をそのままに見ていると長太郎が同じように私の隣に寝そべっていた。 「長太郎?」 「どんなページ見ているのかなって思って。」 腰の周りに逞しくて暖かい腕が絡み付いてきた。 長太郎は私を自分のほうに引き寄せるとそのまま私が見ていた雑誌をぱらぱらとめくり始めた。 「長太郎。」 「ん?」 「おもしろい?」 「どうだろ?」 曖昧な返事をいたずらした子供のような表情を浮かべて返してくる。 長い指が一枚一枚ページを捲っていくのを私は黙って眺めた。 「あ、見てみて。」 あるページで捲るのをとめると長太郎はそれを指差した。 『大切な人と行くお勧めスポット』 かわいらしい文字とポーズを取っている女の子達でレイアウトされているページには今話題のデートスポットがいくつか紹介されていた。 私はそのなかの一つの写真に気づけば引き寄せられていた。 さりげなく長太郎のすらりとした指が置かれている場所の隣にある写真。 落ち着いたたたずまいの建物のベランダに並べられた机の上にコーヒーとケーキが置かれている。 ベランダもよく見ればガラスの窓で囲まれているちょっとしたガーデンテラス。 外には柔らかな色をした木々とその葉の間から差し込む柔らかな光が差し込んでいて・・・ 私はその写真に見入っていた。 すると隣からクスリと笑う声が聞こえる。 そちらへ目を移すと、暖かい色をした瞳と目が合う。 「やっぱりはこういうとこが好きだよね。」 「長太郎、わかってた?」 「うん、なんとなくは。」 正直、嬉しかった。 長太郎が私の好みの場所を知っていてくれていたことに胸の奥が暖かくなったような気がする。 顔の筋肉が緩んでしまうのを止められない。 「明日、部活ないんだ。」 長太郎が切り出した。 「え?そうなの?珍しいね。」 テニス部が学校のある日に部活動をしないだなんて通常はまずありえない。 しかし、明日の日付のことが頭を掠め、また去年の惨事を思い出してその理由をなんとなく察する。 「明日は部活してもどうせまともに活動できないからね。」 私の腰に回った手を少し引き寄せ、苦笑しながら長太郎は言った。 その様子を見て先ほど思い当った理由が外れてはいないことを確信する。 およそ一年前の先輩達の女子達に揉みくちゃにされている姿を思い出せば、明日は当然部活なんてできるわけがないことが容易に想像つく。 とくに、去年と違って今年の三年生達は我が学園の人気者上位にランクインする先輩達が勢ぞろいしている。 群がるだろう女子の人数も去年とは比べ物にならないだろう。 「だからさ。」 雑誌の上に置かれていた手が、今度は私の髪を優しくなでる。 「明日は二人でそこへ行かない?調度学校からもそんなには離れてないし。」 「うん、行きたい!でも、長太郎いいの?私の行きたい場所で。長太郎は他のトコ行きたくない?」 「うん。俺もここがいいなって思ったから。」 「そうなの?よかった。」 「じゃ、放課後、そっちの教室へ迎えに行くね。」 「うん。」 本当は明日学校でプレゼントを渡すつもりだったけど、デートのときにしよう。 嬉しくなって長太郎の胸に擦り寄りながら私はそんなことを考えた。 ぽかぽかとした陽射しとゆっくりと頭をなでてくれる長太郎の手が気持ちいい。 心地よさの中から、だんだんと眠気がわきあがってくる。 それだけ長太郎の腕の中は安心する。 長太郎も太陽の暖かさと私を腕の中においているからか、だんだんと瞳がとろんとしてきた。 「ちょーたろ。」 眠気のせいで少し甘えた声が出る。 長太郎も同じようで少し微笑んでくれながら私を見下ろす。 「ん?なに?」 「暖かくって気もちいね。」 「そうだね。・・・ね、。」 「なぁに?」 「ちょっとだけお昼寝しない?」 「うん。」 返事をすると長太郎がゆっくりと額に口付けをしてくれた。 そして、二人して夢の世界へと旅立つ。 長太郎。 明日はいろんな人たちに追い掛け回されちゃうから、今日はゆっくりしようね。 バレンタインが誕生日のあなたは、他の先輩方よりも大変だと思うから。 だから、今日はゆっくりしようね。 そして、学校が終わったら、また二人でゆっくりしようね。 あなたにとって、安らぎの場所になれますように・・・ まだ一日早いけど、 |