※ 原作に関連する内容が書いてあります。
   ネタバレなどが嫌な方は読まないでください!









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前へ、前へ・・・












テレビの騒がしい音がどこか遠い世界で起こっていることのように感じる。





こんな風に感じるのは現実から眼をそらそうとしているためだろうか。




慌てたレポーターの声。
ざわつく人々の様子。
そして、銅像のように連なっている正義の文字を背負う人々。
そんな彼らの眼ははるか高い場所で跪き、頭をたれているたった一人の人間に注がれていた。



「エース・・・」



小さくもれた声は、彼に届くことは無い。





グランドラインの新世界と呼ばれる海域にある小さな島。
この島と、テレビに映るマリン・フォードでは、どれだけの距離があることか。


歯がゆい思いを胸に抱きながら、せめて想いだけでも届けばいい。
そう願わずにはいられないこの現状。



「エース・・・」



画面に映るのは、体を小さく折り曲げたその姿だけ。
顔が見たいのに、そんなことができる状況ではなくて、
笑う姿が見たいのに、今の世界はそれを許してはくれない。

なぜ、私はこれだけ遠くの地にいるのか。
その事実を呪いたい。










エース。
あなたと共に過ごした時間は、本当に短かった。



あれは、この島がまだまだ荒れていたそんなとき。
シロヒゲのオヤジさんは、たくさんの船を引き連れてやってきた。
その内の一隻に乗っていたのが、あなただった。





オヤジさんは、暖かな気候のこの島が居心地良かったのか、随分と長いこと滞在していた。

海賊団の人たちは、強面な人が多くって、
それまで海賊の被害を受けて苦しめられていた島の住民は、なかなか心を開くことはなかったのよね。

でも、彼らはそんなことを気にもとめず、気軽に村を闊歩したり、話しかけてきたり・・・
気がつけば私たちの生活の中に自然と溶け込んでいた。





今思えば、彼らは海賊だからこそ自分たちを恐れる人々の眼には慣れていたんだろう。

エースはそんな「荒くれもの」たちの中でも、とても人当たりが良い方で、
普通に世間話等をするようになるにはそれほど時間はかからなかった。
そして、そうした何気ないやり取りが続いていく中、
知らず知らずの内に暖かい想いがしっかりとした形を作り上げていた。

エースも同じように想ってくれたことを知ったときは、それこそ天にも昇る思いだった。





でも、やっぱり、海賊相手に恋はするものじゃないわね。

想いが通じて数ヶ月、シロヒゲ海賊団は別の島を拠点とするため、およそ半年前にこの島を出て行った。





ねえ、エース?
あなたとまた会うことができる日を夢見て過ごしてきていたのに、
次に見る姿がテレビに映る、それも処刑される姿だなんて、あんまりじゃない?




『また会おうな、!元気でな!』





そういって笑うあなたの顔はとっても輝いていて、寂しいなんていう言葉を声に出させてくれなかった。
それでも、一年後か、三年後か、きっといつか逢いに来てくれるって、なぜか感じさせてくれた。




でももう、あなたと会うことは許されないのだろう。









あなたがこれまで頑なに自分の生い立ちについて語ることを拒んできた理由を、
奇しくも私は今日はじめて知ることになった。

「そうね。人に言えるわけ無いわよね。」

誰かに聞かれたのならば、最後。
その事実は災いしかもたらさない。

そう、あなたがあの大海賊の血を受け継いでいるという事実は・・・




いま、あなたは海軍本部のど真ん中。
こんな絶望的な状況で、わずかな希望にすがりつきたいと望むのは愚かなことかしら?
でも、あなたがこれからもこの世のどこかで生き続けて欲しいと願うのはやめたくない。

「大丈夫、シロヒゲのオヤジさんは、きっと来てくれる。」





この瞬間にあなたがいる場所へたどり着く術も、
今この状況からあなたを助け出すことのできる力もない私には、こうして祈ることしかできないの。








例え、シロヒゲのオヤジさんが彼を助け出すことがしたとしても、
私が再び彼に会うことは永遠にないのだろうけど。







テレビの画面は、今はエースから逸れて、なにやらえらそうな顔で話をしている男を映していた。






ねえ、エース。
あなたは自分の血をこの世に残すつもりはまったく無かったのでしょう?
自分の血を誰よりも嫌っていたあなたは、その血故にとても苦しんできたのでしょう?


でも、ごめんなさい。


「あなたの血を絶えさせてなんかやらない。」






ゆらゆらと、椅子を揺らしながら、ちらりと窓の外を見た。

外は晴れていてとても気持ちよさそう。
でも、明日からはきっと嵐が来る。


世界中を巻き込んだ大戦争という名の嵐。







テレビの音が騒がしくなった。

そして、ここ数日新聞に名を連ねていた海賊団の旗が、海からその姿を現す。

レポーターの声はますます上ずってしまって、もはやなにを言っているのか聞き取ることは困難。
きっと今後の世界の行く末について予想を次々とまくし立てているでしょうね。






「どちらにせよ、『シロヒゲの縄張り』として知られているこの島がこのままでいられるわけがないわね。」






これから訪れるだろう変化を思い、視線を下に移す。


「あなたに『ポートガス』を名乗らせることができないのは、やっぱり少し残念だな。」


膨らんだおなかを撫でて、話しかけてみる。


エースは、このことを知らない。





たった一晩。
そうして生まれたこの命。





近しい人々を除いて、この子の父親が誰であるか外に漏れることはきっとないだろう。
いいえ、知られるわけにはいかない。
海賊王の血が、まだ耐えていないという事実は海軍に気づかれるわけにはいかないんだ。





「エースは確か、自分が女の子だったら『アン』って名付けられるはずだったんだっけ?」




あなたには、どんな名前をつけてあげようか。






私は・D・






ポートガス・D・エース。


あなたの血を後世に残し、未来へつなげる女。





<コメンツ>

初めて書いた悲恋。

コミックスを読み終わって、思い返したときにすっごく書きたくなったお話です。

衝撃的な結末を迎えてしまったマリンフォード編ですが・・・
どこかで、彼の子供がいたらいいな〜って思ってみたり・・・
そんな願望の基、書いてみました。

でも、書く前から解ってたけど、なんだか切ないお話に・・・



ここまで読んでくださってありがとうございました。
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